新日本経済新聞2015年10月27日

大阪ダブル選の最大の争点は「都構想」。やはり「真実」の認識が必要です

京都大学大学院教授 藤井聡

今回の大阪ダブル選挙の維新候補のキャッチコピーは、

  「過去に戻すか。前に進めるか」

要するに、さらに「改革」を推し進めていくかどうか、というイメージを全面に押し出しています。もちろん、その前に進めた先にあるのは「大阪都構想」です。

一方で、自民党候補に使われているキャッチコピーは、

  「NEED REAL PLAN」

これは、リニアや北陸新幹線といったプロジェクトを進める「本物の計画」を進めていく、というイメージです。もちろんその背後には、「与党の力」があり、そして、リニアや新幹線と接続される「地域間の連携」があります。

こうやって見ますと、自民党の公約は、極めてオーソドックスなものである一方、維新側は、やはり「都構想」をコアとする「改革」を志向しています。

したがって、今回のダブル選挙の最大の争点は、よくよく考えるとはやり、

「大阪都構想への賛否」

です。

さらに言うなら、今回のダブル選挙で維新側候補がともに勝利すれば、公約通りに「大阪都構想」が実現する可能性が俄然、現実味を帯びてくる事になります。

一方で、もしも維新の側が府か市のいずれかの首長選で破れれば、大阪都構想の設置は事実上「不可能」となるでしょう(府市統合こそが都構想の本質だからです)。

つまりこうした意味においても、今回の選挙の最大の争点はやはり、

  「大阪都構想」

なのです。(一旦住民投票で否決されたにも関わらず、ですが)。

ところが、今回のダブル選挙では、副首都や近畿メガリージョン、IR、そして「改革」といった多様なキーワードがちりばめられた論戦が展開されており、「大阪都構想」という言葉が中心キーワードになってはいません。

これは、大変に危険な状況です。そもそも、何度も繰り返しますが、

  「都構想で大阪はダメになる」 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42509

のであり、

  「大阪都構想が日本を破壊する」 http://www.amazon.co.jp/dp/4166610201

のは、決定的だからです。

そんな「危険なもの」が、実質上の最大の争点であるにも関わらず、その事実を知らないままにダブル選挙の投票判断が行われれば、大阪の有権者は「トンデモない選択」をしてしまいかねません。

したがって、今、大阪の皆様方に知っていただく最も大切な事実は、

  「今回の大阪ダブル選挙における最大の争点は、
   やはり『大阪都構想』である」

という

  『事実』

なのです。

・・・

ところで、この都構想、当初は大変に「ポジティブ」な印象を、大阪の方々はお持ちでした。事実、一昨年の時点では、「ダブルスコア」で賛成が反対を上回っていたのです。

ところが、5・17の住民投票の時には、ギリギリで反対が賛成を上回りました。

なぜ、この様に、人々は「反対」に回ったのでしょうか?

この点について、一つの学術調査データがあります。

京都大学藤井研究室では、史上最大の住民投票とすら言われた都構想の住民投票の有権者判断が、何によって影響を受けて「変化」していったのか、を(政治心理学の視点から)明らかにすべく、

・投票三か月前の2月中旬(13日~18日)と
・投票直後の5月下旬(25日~27日)

の双方において、大阪市の居住者を対象としたアンケート調査を(両方とも同じ居住者を対象として)行いました(一般に、こうした調査はパネル調査と言われます)。

まず、私たちはこの調査から得られたデータの中から、特にこの三か月の間に

(反対ではなかったが)反対になった人、
(賛成ではかったが)賛成になった人

を抽出しました。その上で、彼らがそれぞれ、どんなメディアを、どれくらい「参考にした」のかを確認しました。

その結果がこのグラフです。
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=711633928937553&set=a.236228089811475.38834.100002728571669&type=3&theater
(※ このグラフで、「赤い四角で囲んだメディア」がありますが、これは、「賛成になった人」と「反対になった人」で、あるメディアを参考にしている度合いが、統計的に有意に異なっていたメディアです。)

このグラフから分かるのは、どの新聞社もテレビもインターネットも、さらには、橋下氏のツイッター・演説・テレビも、結局は人々の意見を「変える」ことには成功していなかった、ということです。さらには、維新がやっていたタウンミーティングもホームページも、大阪市が主催した住民説明会も、人々の意見を「変える」力を持っていなかったことが分かりました。

しかし!

  ・学者/専門家の意見
  ・チラシ
  ・週刊誌

の三つについては、それぞれ、人々の意見を「変える」力を持っていたことが示されました。しかも、その力はいずれも、「反対にさせる」という力でした!(注1)

影響を与えることができなかったテレビや新聞等は、デマであろうがなかろうか兎に角「両論併記」する方針で情報提供されます。両論併記と言えば聞こえはいいですが、要するに、「真実」が「ウソ」と並置されることで、何が真実が分からなくなるのが、テレビや新聞なのです(インターネットでは、あらゆる意見に反対コメントが書き込まれるため、やはり真実がウソに汚染されてしまう傾きがあるともいえるでしょう)。

一方で、「人々の意見を変える力」を持っていたメディアはいずれも、デマやウソと並置されることなく、「客観的な真実・事実」をじっくりと伝達できるメディアです。

つまり、この結果は、「真実」が「デマやウソ」と並置されずにしっかりと伝達できることができれば、人々は、

   「反対」

するようになったということを示しているのです。

これを言いかえるなら、大阪都構想なる代物は、中身が知られれば知られるほど、人々は反対するようになる代物だった、ということが分かったのです。

以上の結果は、都構想の住民投票とは、本当に、

  デマと真実との戦い
  ウソと誠との戦い

であった、ということを、実証的に示しているわけですね。

そうである以上、今回の大阪のダブル選挙でも、デマやウソに惑わされず、しっかりと真実と誠を見据えた判断していく事が求められることは論をまちません。

例えば、「今回の選挙争点は都構想ではない」というイメージ戦略があったのなら、自らの良心に照らせば、「そうではない。煎じ詰めれば結局、最大の争点は都構想なのだ」という「真実」が見出せるはずです。

あるいは、「大阪都構想で大阪を副首都に」というイメージ戦略があったのなら、「そうではない。都構想で大阪市民の自治は大幅に抑制され、都市計画の力も大幅に削がれ、何よりも行政が大混乱する事を通して、結局大阪はダメになる事は決定的なのだ」という「真実」が、同じく自らの良心の下で、見いだせるはずです。

こうした「真贋」に関する判断は、選挙において極めて重大な意味を持つものです。一人一人の有権者、そしてそれに影響を及ぼし得るTV関係者、新聞関係者のそれぞれが、機械的に両論併記を繰り返すことを回避し、自らの良心に従い、何が真実であるのかを見極めつつ、公正な言論、情報活動を展開されますことを、心から祈念いたしたいと思います。

「ウソ」と「真実」があったのなら、その公正中立とは足して二で割った両論併記では断じてありません。「ウソを排して真実を伝える」ことこそが、まっとうな公正中立なのです。

PS 「橋下維新・検証」の三部作、是非、ご一読ください!
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※橋下氏の「多数決至上主義」は毒をまき散らかす装置です。そんな「毒」を知りたい方、是非、こちらを!
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PS2 学問の自由を侵害する教育改革『大阪府市大学統合問題』….ご関心の方は、是非、下記シンポジウムにご参加ください!(11月1日 於:大阪市立大学)
http://satoshi-fujii.com/symposium4/

PS3 大阪ダブル選挙に向けて、動画サイト「超人大陸」で新シリーズを始めました!
http://www.choujintairiku.com/fujii151026.html

(注1 なお、興味深い事に、「賛成意見」のチラシや学者に触れた人も、「反対意見」のチラシや学者に触れた人も、同様に、賛成よりも反対になる傾向が強い、という事が示されています。これは要するに、チラシや学者の意見に触れようとする『真実を追い求める人々』は、チラシや学者意見に触れ、それらを比較吟味し、結果、賛成よりも反対になっていった、という経緯を示しているものと考えられます)