新日本経済新聞2015年10月13日

「吉村洋文氏」の都構想についての言説の詭弁可能性を検証します。

京都大学大学院教授 藤井聡

大阪維新の会の「吉村洋文氏」(大阪市長選の出馬予定者)は、今年の大阪都構想の住民投票の際、都構想を弁護するために、様々な発言を行っています。

つい先日、彼の都構想についての発言の中に、著しく不当なウソ、あるいは、詭弁が含まれているのではないか、という動画情報をお知らせいただきました。

https://www.youtube.com/watch?v=B56IfdvNAJk

これを視聴したところ、確かに不当な詭弁・ウソの疑義が濃厚な言説が少なくとも3つ含まれており、吃驚いたしました。ついてはここではそれを、都構想について様々な分析を進めてきました学者の立場から、改めて解説いたしたいと思います。

【吉村氏のウソ・詭弁疑惑1】 「大阪市の財源は減らない」というウソ疑惑
当方や森教授をはじめとした様々な財政学者は、「都構想が実現すると、現大阪市民の自治体が使用できる財源が減る」と主張し続けています。

しかしこれに対して、吉村氏は間違っていると、断罪しています。例えば彼は、都構想の住民投票の直前のネット番組で、次のように発言しています。

「(藤井教授たちは……)財源が減る,とか言うんですよね.でもその,法定協議会がやってる設計書の中では財源が減るっていう事はないですから,今使ってる医療とか福祉とか教育,大阪市でやってるその財源はそのまま特別区に移行するので,財源が減ることはないんですよね.」
https://www.youtube.com/watch?v=B56IfdvNAJk の45秒頃~)

しかしこれは、単なる見解の相違を超えた、あからさまな「ウソ」である疑義が濃厚です。

まず、彼が言っている「法定協議会がやってる設計書」というのは、特別区設置協定書とその関連資料を表すものと思われますが、その中には、次の説明資料が明確に含まれています。
http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/wp-content/uploads/2015/03/tokoso/7jijitsu2/%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%892.jpg

この図からも明確な通り、今、大阪市民が大阪市民のために使っている税金の内、2288億円が、大阪府の一般会計に組み込まれることが明記されているのです(これは、当方が指摘した「7つの事実」の「事実3」です)!
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2015/01/27/fijii/ および http://amzn.to/1GF42Us

しかも、この2288億円が、大阪市民以外の事に使われていく傾向が極めて大きくなることも明白なのです(これは、当方が指摘した「7つの事実」の「事実4」です。また、「事実5」からもそれは明白です)!
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2015/01/27/fijii/ および http://amzn.to/1GF42Us

この事実3、4については、今年の1月から5月までに、実に様々な論争が繰り広げられましたが、誰一人として当方の主張を理性的な根拠を示しながら論駁できた者はいませんでした(いるなら教えていただきたいと思います)。

こういう論争があったにも関わらず、吉村氏は、さもそういう論争が無かったかのように「法定協議会がやってる設計書の中では財源が減るっていう事はない」と、都構想の賛成運動の中で「しれっ」と公言されたのです。

この公言は、誰も藤井の事実3、4を論駁できていない以上、「ウソ」と言っても差支えなきものと解釈することは、十二分以上に可能であると筆者は考えます。

もしも吉村氏側からこれについて反論があるのなら、是非とも、事実3、4を、正々堂々と、論理的に論駁していただきたいと思います。それが出来ない限りにおいて、吉村氏は「財源は減らない」とウソをついたことになると、筆者は考えます。

【吉村氏のウソ・詭弁疑惑2】「どれが減るか分からないからどれも減らない」という詭弁疑惑
吉村氏は、当方が、都構想の住民投票の直前に開催した「学者説明会」(第一回、5月9日)に参加者として参加されました(受付でお名前を伺っておりましたので、当方ももちろん存じ上げておりました)。
http://satoshi-fujii.com/briefing/

説明会では書面で質問を受け付けたところ、吉村氏から「住民サービス下がるって,具体的にどの住民サービスがどう下がるんですか,教えてください」という質問をいただきました。ついてはこれについて、財政学の森教授は次のように回答されました。

(森教授) 「その他の住民サービス何が下がるのか?と.これはわかりません.ただ言えるのは,財源が今より少なくなる.(中略)ただし,何がどう削られるのかということはわかりません.何がどう削られるかは,それは将来の区長であり,区議会であり,住民の皆さまが決める話である.」
https://www.youtube.com/watch?v=WnXu4lnnUl8 1:26:50~あたり

極めて当たり前の発言です。

どれが削られるか分からないが、どれかは確実に削られるだろう、とおっしゃっているわけです。至って普通の発言で、その発言の中に「不当さ」を微塵も見いだすことはできません。

しかしこの回答を聞いた吉村氏は(後に述べるように、冒頭で紹介した動画の前に)、次のようにこの質疑の顛末を、公開討論会で「財源は減らないので、サービスレベルは下がることは無い」と断定した上で、次のように紹介したのです。

「(学者達は)『具体的にどの住民サービスが下がるかは言えません,わかりません』,そうおっしゃったんです.それはまさにそうなんです.どの住民サービスが下がるというのは、これはないんです.」 ( )内は筆者加筆
https://www.youtube.com/watch?v=GKTkNfWvzh4 46:00頃~

これは極めて悪質な詭弁である可能性があります。

なぜなら、この主張は、「どの住民サービスが下がるかは言えないと言っているくせに、それが下がる下がると言っている彼らは極めて『不当』な人々だ!」という、

「印象」

を付与するものだからです(そもそも詭弁とは、一見正当そうな論理を語りながら、相手が不当である等の「印象」を付与するために吐かれるものであり、その定義からして、この吉村発言が詭弁である疑義が濃厚なのです)。

実際、都構想の住民投票の直前にもこれと同様の発言を繰り返しています。

「(吉村氏)住民サービス下がるって書いてあるけど,具体的にどの住民サービスがどう下がるんですかっていうのを書いて質問を出しました.そしたら,教授四人くらいいたんですけど,実はその,どの住民サービスが下がるかは言えません,と.これが下がるというのは言えません,と.

(今井氏)それやとおもわせぶりやんか。

(吉村氏)そうなんですよ.だけども、住民サービスが下がる,と.」
https://www.youtube.com/watch?v=B56IfdvNAJk の冒頭部分)

吉村氏が「そうなんですよ」と発言したということはつまり、「藤井らは思わせぶりだ」と発言したに等しいわけです。

しかも、「だけども、住民サービスが下がる,と.」と言っているということは、「どの項目の住民サービスが下がるか言えないのだから、住民サービスが下がるなんて主張ができるはずもない、にも関わらずこいつらはそう主張している不当な人々だ!」という趣旨の発言をしたわけです。

しかし第一に、上記森教授の発言は、どこをどう見ても「思わせぶり」なものではありません(もう一度、森発言を確認してください)。したがって、この吉村発言は「ウソ」の部類である疑義が濃厚なのです。

第二に、「どの項目の住民サービスが下がるか言えない」けれども「住民サービスが下がる」と主張することはいたって正当な主張なのですから、この吉村発言は(上記に定義した)「詭弁」である疑義が明確に存在しています。

(※ なお、これに関しては、誰かが吉村氏の様な発言をするだろうと、あらかじめ予期しており、かつ、その吉村氏の言動はその予期通りだった….というオマケがあるのですが、それについては「付録」をご参照ください)

【吉村氏のウソ・詭弁疑惑3】 「大阪市がなくなると言っているのはおかしい」という詭弁疑惑
さて、最後のウソ疑惑ですが、先に紹介した、住民投票直前のネット番組で、吉村氏は次のように発言しています。

「今日びっくりしたのがですね,藤井教授の説明会でも大阪市が無くなる,そして大阪のふるさととか故郷が無くなるとかですね,そんな感じのこと言ってるんですよね.明らかにおかしいな思ったんですけど.」
https://www.youtube.com/watch?v=B56IfdvNAJk の1:00頃~)

この発言は、先に紹介した、当方が話題提供をした「学者説明会」に参加してのものですが、その動画を改めて確認しましたが……
https://www.youtube.com/watch?v=WnXu4lnnUl8

第一に、改めて当方、自信の動画をチェックしましたが、吉村氏が言う様な「大阪のふるさととか故郷が無くなる」とは発言していません。したがってこれはいわゆる「藁人形論法」という、典型的な詭弁である疑義が濃厚です。

第二に、「大阪市が無くなる」ってことについて「明らかにおかしい」と言っていますが、「大阪市」は、都構想になれば、無くなるのは事実でした! それが都構想の定義そのもの、なんですから。あり得るとするなら、「大阪市がなくなる」という当方の発言を「大阪市の土地そのものがなくなる」という風に曲解して「おかしい」と言っているのかもしれません(が、もしそうだとするなら、これもまた、「藁人形論法」という詭弁です)。

。。。。

以上、本稿では、吉村氏の「都構想」に関わる、3つの「ウソ・詭弁」疑惑を解説しました。

この疑惑は、上記の理由から、当方はウソ・詭弁の疑義が濃厚に存在すると考えています。当方の見解の正当性については是非、読者お一人おひとりがしっかりとご吟味いただけますと幸いです。

では、また来週!

【付録】
吉村氏による、「ウソ疑惑2」で解説した「詭弁」は以前から、繰り返し我々に差し向けられてきたものでしたから、森教授の発言の直後、当方から、こういう発言をするとすぐに、

「『やっぱり見ろ、どれが減るかわからないじゃないか!おまえは! だから,こいつの言ってることはデマなんだよ!』
https://www.youtube.com/watch?v=WnXu4lnnUl8 1:28:40~あたり

と反論されるのだが、それは極めて不当なのにしか過ぎない、と発言しました。そして、次のように解説しました。

「例えばうちの晩御飯のお金が半額になります.来年から.じゃあうちの家内がどれを削るか僕にはわからないんですよ.だけど,お新香が削られるのか,トンカツが全部なんか一番その時安いお魚になるのかシーチキンになるのかわからないけど,値段は半分になるので質は下がるよ,っていってるときにですね,

『でも,どのおかずがどれだけどういう風に下がるか言えないんだったら,デマじゃないか!』

って言うやつ、どう思います?」
https://www.youtube.com/watch?v=WnXu4lnnUl8 1:28:40~あたり

いかがでしょうか――?

吉村氏の発言が、如何に噴飯ものの不当なものにしか過ぎないということを、これでお分かりいただけるのではないかと、思います。

なお、吉村氏はこの当方の「こういうデマを言う輩はホントにバカですよね」という趣旨のおちょくり発言を耳にしていたわけです。それにも関わらず、まさにその「デマ」を、性懲りも無くネット動画や公開討論会で繰り返した、というのが、実態と解釈できそうです。