新日本経済新聞2015年9月29日

GDP600兆の実現と大阪再生のためには、
「新自由主義」路線でなく「ケインズ・リスト」路線が不可欠です。

京都大学大学院教授 藤井聡

安倍総理・自民党総裁がこの度9月24日、

「本日この日からアベノミクスは第2ステージへと移る」
http://www.sankei.com/premium/news/150924/prm1509240008-n1.html

と明言した上で、戦後最大の経済600兆円をオリンピックイヤーに目指すと宣言されました。

「ターゲットは戦後最大の経済、そしてそこから得られる戦後最大の国民生活の豊かさだ。GDP600兆円の達成を明確な目標として掲げたいと思う。」
http://www.sankei.com/premium/news/150924/prm1509240008-n3.html

あまり知られていないかもしれませんが、そもそもこの600兆円という数字は、

「政府が公表している正式目標」

です。

政府は本年の8月8日に、「中期財政計画」として、財政再建の基本計画を正式に取り決めていますが、その計画の中には、ベースケースと経済再生ケースの二つが想定されています。
https://www.mof.go.jp/budget/fiscal_condition/related_data/201503/201503_4.pdf

その経済再生ケースでは、毎年3~4%程度の名目成長率が想定されており、オリンピックが開催される2020年には、599兆円に到達する見通しとなっているのです。
https://www.mof.go.jp/budget/fiscal_condition/related_data/201503/201503_4.pdf の「35」ページの【試算結果】参照)

ですから、この度の安倍総理が宣言された「戦後最大の経済・600兆円」は、政府が想定する「成長率」が保証されれば、それで十分に到達できる目標なのです。

では、そんな「成長率」の実現が容易なのかと言うと……既に現時点において、その達成は、実際のところ大変に厳しくなっています。

第一に、「消費税増税ショック」は、未だに日本経済に、ダメージを与え続けています。

4-6月期のGDPはマイナス成長、そうなったのも、民間の消費と投資が消費税増税によって冷え込んでしまったことが最大の原因です
http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/wp-content/uploads/2015/09/10chou_hoseiyosan/%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%892.JPG

さらには、消費税増税で、一時的に物価も上昇していましたが、その物価もついに、マイナスになっています。
(島倉さん提供のこちらのグラフ⇒ http://www.yomiuri.co.jp/economy/20150925-OYT1T50011.html

もうこれだけで、名目成長率3~4%を毎年確保するのが絶望的に難しい状況……でありますが、「中国ショック」もまた、日本の成長を低迷させる事は必至です。
http://jp.reuters.com/article/2015/09/24/china-economy-consumers-idJPKCN0RO0GG20150924?sp=true

これに、近い将来に10%への消費増税も予定されているわけですから、政府計画で言われる「経済再生ケース」(名目成長率3-4%)を実現することは、

「もしも、何もしなければ」

著しく困難であることは間違いないのです。

ですから、総理が今回600兆円を目標に掲げると明言したということは、

「600兆円を実現するために、何かを行う!」

ということを宣言したに等しいのです。

この点について、総理は、以下の二つの方針に言及しておられます。
http://www.sankei.com/premium/news/150924/prm1509240008-n3.html

(方針1)
「デフレから脱却し、力強い成長軌道に乗せるため、生産性革命を大胆に進めていく。大きな経済圏を世界に広げながら投資や人材を日本へと呼び込む政策を果断に進めていく。」

(方針2)
「南アルプスを貫く全長25キロに及ぶ巨大トンネル。先月、リニア中央新幹線が本格着工となった。東京と大阪を1時間で結ぶ夢の超特急であり、日本の最先端技術の結晶だ。北陸新幹線は今年の春、富山から金沢まで乗り入れた。さらに来年3月には北海道新幹線が開業となる。高速鉄道によって北から南まで地方と地方をつないでいく、日本全国が大きな1つの経済圏に統合されることによって、それぞれの地方にダイナミックな成長のチャンスが生み出される。」

上記、経済成長への対策として言及されているのは(方針1)であり、(方針2)は地方創生のためのプロジェクトという趣旨で言及されています。

しかし言うまでもなく、(方針2)は、

公共投資の「フロー効果」(投資することによる経済刺激効果)

という意味でも、

交通インフラによる「ストック効果」
(交通が便利になって、需要と供給の双方が刺激される)

という意味でも、経済成長を促すことは間違いありません。

一方で、(方針1)は、

(1-1)生産性を高める=供給量を高めることを通してデフレから脱却する。
(1-2)グローバル化を促進することで投資・人材を日本に呼び込み、デフレから脱却する

という二点を主張する、いわゆる、「新自由主義路線」のものですが、これについては、(少々”微妙”な言い方が恐縮ですがw)議論が分かれるところです。

第一に、(1-1)の供給量を高めることは、デフレ脱却「後」には重要ですが、デフレ脱却そのものについては、デフレギャップを拡大します。

第二に、(1-2)のグローバル化の方針は、世界経済が不調でさえなければ十分に高い合理性を持ちうるものですが、ギリシャ・VW危機に苛まれたユーロ圏、上海株ショックに見舞われた中国、そして、それらに端を発する世界的デフレ深刻化……という現状においては、必ずしも合理性を持ちません。

以上を考えると、(方針1)よりもむしろ(方針2)の方がより合理的なデフレ脱却方針である可能性が考えられるところです。

この(方針2)はもちろん、内需拡大によってデフレギャップを埋める事を目指す「ケインズ路線」と同時に、インフレになってからの成長を促すインフラを重視する「リスト路線」(交通インフラこそが国力の源泉であると論じたフリードリッヒリストの路線)でもあります(ちなみに筆者は、このケインズ・リスト路線を踏まえたインフラ論を「超インフラ論」とまとめて呼称しています)。
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2015/06/02/fujii-145/

ですから、今日のわが国政府は、戦後最大の経済・GDP600兆円を目指すわけですが、それを目指すにあたって、(方針1)に象徴される
「新自由主義路線」
で目指すのか、(方針2)に象徴される
「ケインズ・リスト路線」
で目指すのかが問われているわけです。

無論、両者を「折衷する」という道も存在しうる所ですが、残念ながら、この両者では、一方が他方を「逆効果だ」と否定する側面を持ち合わせています。

「防災減災ニューディール」の政策参与を担当させていただいている当方は、明確に
「ケインズ・リスト路線」
こそが、デフレを脱却し、日本経済を成長に導く唯一の道であると認識していますし、その路線での政策アドヴァイスを提供すべき使命を帯びた存在であると自認しておりますので、今後とも、自説が誤りである可能性を最大限に自問しつつ、さらなる政策提言を進めて舞いありたいと思います。

。。。。

さて、その路線で考えた時、今、何よりも求められているのは、

増税ショック対策のために「最低5兆円」
http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/wp-content/uploads/2015/09/10chou_hoseiyosan/%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%893.JPG

中国ショック対策のために「最低5兆円」
http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/wp-content/uploads/2015/09/10chou_hoseiyosan/%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%894.JPG

あわせて、

「10兆円の補正予算」

を緊急に断行すべきであると考えています。
http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/wp-content/uploads/2015/09/10chou_hoseiyosan/%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%895.JPG

そして、その中身については、じっくりと吟味していく「ワイズスペンディング」の姿勢が不可欠であると考えます。
http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/wp-content/uploads/2015/09/10chou_hoseiyosan/%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%897.JPG

・・・

このように、わが国を成長させるには、改革や緊縮を旨とする「新自由主義」ではなく、積極財政に基づく内需の拡大と適正なインフラ政策に基づく成長戦略を旨とする「ケインズ・リスト路線」が必要不可欠なのです。

しかしそれは、「日本の経済政策」にとって真実であるだけではなく、「地方創生」にとっても真実なのです。

今、大阪では、橋下維新があらたに立ち上げる「おおさか維新の会」では、「都構想」を中心とした、緊縮と構造改革を軸とした「新自由主義」路線の諸政策が政策公約に掲げられようとしています。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150928/k10010250031000.html

しかし、それでは、日本経済が成長しないのと同様、大阪経済も成長どころか衰退することは目に見えているのです。
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2015/09/23/fujii-161/の検証1~4)

一方で、「ケインズ・リスト」路線の大阪再生といえば、筆者が提唱する「大大阪構想」、あるいは、その構想と大いに重なり合う、自民党近畿議連が提唱している

「近畿メガリージョン」

の構想です。
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00302850.html
http://mainichi.jp/select/news/20150917k0000m010025000c.html

安部総理の(方針2)でも論じられたリニアと北陸新幹線を基軸として、大阪を中心に近畿・西日本各地と大阪を接続し、巨大な経済圏(近畿メガリージョン)を形成し、それを通して、抜本的な成長を果たそうとする構想です。

奇しくも、以上の報道を見る限り、「橋下維新」は明確な「新自由主義」路線であり、自民党(近畿議連)は「ケインズ・リスト」路線となっているわけです。

したがって、来たるべく大阪W選挙(市長/知事選挙)で、この維新と自民党系が選挙戦を戦うとするなら、その戦いは文字通り、

「新自由主義」路線 VS 「ケインズ・リスト」路線

の様相を呈しているわけです。

・・・・

このように、日本全体の思想的闘争(新自由主義VSケインズリスト主義)は、そっくりそのままの形で、大阪にて繰り広げられているものとなっているのです。

いずれにせよ、GDP600兆円の実現についても、大阪再生についても、それら自身を否定する方々はほとんどおられないでしょう。

そうである以上、今問われているのは、それを実現する

「思想」

として一体何が正しいのか、という事なのです。

以上にも論じた理由の通り、当方にとっては、ケインズ・リスト主義の合理性は、著しく高いものと確信しています。

一人でも多くの有権者の皆様にこのような問いを立てていただき、その上で、いずれが人々を幸福に導くことができるのかを是非、考えていただきたいと思います。