「大阪都構想の危険性」に関する学者所見

(10月21日現在、計132人分)

「大阪都構想」、すなわち「特別区設置協定書」に基づく大阪市の廃止と四分割については、大阪市民の暮らしや都市の在り方に直結する様々な「危険性」が、行政学、政治学、法律学、社会学、地方財政学、都市経済学、都市計画学等、様々な学術領域の研究者から数多く指摘されている。

しかしながら、マスメディアではそうした「危険性」についてはほとんど論じられておらず、イメージ論が先行した議論が繰り返されている。このままでは、大阪市の廃止・分割という不可逆的な決定を迫られる住民投票において、大阪市民が適正な判断を行うことが著しく困難であることが強く危惧される。今求められているのは、危険性、リスクを明らかにしたインフォームドコンセントなのである。

こうした実情を鑑み、大阪市民が理性的判断を下す支援を行うことを企図して、「都構想」が大阪市民の暮らしや大都市大阪そのものに及ぼす「危険性」を様々な視点から明らかにしている学者達から、その具体的内容についての所見を、呼びかけ人(京都大学藤井聡教授・立命館大学森裕之教授)から9月17日に公募したところ、現時点で132名から所見が供出された。

以下、それら132名の学者達からの所見を全文、掲載する。

西村弘(関西大学・教授)交通論

「大阪都」という名称は、東京を意識し続けてきた大阪人の琴線をくすぐるのかも知れません。しかし、東京に負けない成果を上げてきたものこそ戦前の大阪市政でした。大阪港や大阪市電、市営地下鉄のどれもが、国の助けを借りずに大阪市が自前でつくり上げたものです。それらは市民生活のなかから出てきたニーズであり、大阪市政がそれをくみ取り、その実現が成長を生んできました。のみならず、下水道や公園、市営墓地などの生活基盤も都市計画の中に位置づけられ、市民は東京に負けない「大大阪」を誇りにできたのです。
戦後は一転、東京追従の行政が続きました。必要性の吟味より、東京にあるものは大阪にもと国から補助金をねだる市政は創造性に乏しく、実現しても大阪人が誇れる発展には結びつきませんでした。「大阪都」構想は、一見、何かやってくれそうな期待をもたせますが、大阪市から税金を吸い上げてやろうとしている成長戦略がカジノ誘致のためのインフラづくりとは・・・。現在と将来の大阪のニーズを見据えたものとはとうてい言えません。大阪都構想は大阪市民の未来づくりを破壊すると考えます。

碇山 洋(金沢大学・教授)財政学

「都構想」は大阪市を解体し市民へのサービスを低下させるものでしかありません。財源の多くが大阪府に吸い上げられ、その使い道を市民が決めることはできません。しかも、いったん市を解体してしまうともとにもどせないことになっています。「都構想」にはこのような深刻な危険性があるのです。

西澤信善(神戸大学・名誉教授)アジア経済論

2015年の住民投票の結果はたとえ僅差であってもそれを受け入れなければならない。英国のEU離脱の国民投票は一度きりで、それが正しいやり方である。2回目の住民投票にかかる膨大な費用は、税金の全くの無駄遣いである。経費の削減を声高に叫ぶ維新の主張と矛盾する。府市重複の無駄というが、例えば大阪府大と大阪市大の二つの大学が存在しても直ちに重複の無駄とはいえない。それぞれ建学の精神が異なる

冨田宏治(関西学院大学・教授)政治学

5年前、「都構想」をめぐる政治過程が民主主義の根幹たる熟議を徹底的にないがしろにしたものであることを厳しく糾弾しましたが、今回もまた同じことを指摘しなければなりません。
民主主義の本質は熟議であり、数の力で押し切る多数決ではありません。熟議を尽くして合意を形成することなく、政治的取り引きや密約によって数を確保して多数決で押し切ることは、究極の反民主主義でしかありません。
政令市である大阪市を廃止して、村以下の権限と財源しか有しない特別区に分割するという「都構想」は、そもそも熟議による合意形成の対象と成りうる代物ではありません。
今回も、維新と公明の密約暴露、禁じ手とも言うべき府市クロス選、公明の不可解な方針転換という熟議を欠いた政治過程の末の住民投票です。背後には維新、首相官邸、創価学会本部の間のパワーゲームの影が見え隠れしています。
歴史ある政令市である大阪市の命運をこのような形で尽きさせる訳にはいきません。

高橋 勉(岐阜協立大学・教授)経済学

これは「大阪都構想」ではない。「第二東京都構想」である。しかも,それは「自称」にすぎない「都」である。現在の日本社会において必要なことは,人々の生活の基盤となる「地域」の再生であって,大規模開発に都合の良い「市場」の整備ではない。大阪が目指すべきは,「大阪」という文化のもとで,大阪に暮らす人々にとって誇りが持てる「大阪」であり,それは「東京化」を進めることによってもたらされるものではないだろう。この「構想」では,進むべき方向が逆ではないだろうか。

槌田洋(元日本福祉大学・教授)地域経済学・地方財政学

コロナ禍が、大都市での生活スタイルや経済活動に、継続的な変化をもたらすことが予想される中で、密集地の多い大都市を見直して、住民の声を反映した町づくりを進めることが改めて必要になっています。こうした中で、都市計画や産業再生に向けた事業を計画し実施する権限を、大阪市を廃止することによって府知事に差し出すことは全くの誤りです。取り分け高齢化が進む今の大阪市に必要なのは、カジノを中心とした大規模開発のために府知事に権限を集中させるのでなく、住民の暮らしを守ると共に地域産業を繁栄させるための政策を、下から作り上げることです。

柏原誠(大阪経済大学・准教授)政治学・行政学・地方自治

維新の首長達によれば、住民投票は究極の民主主義ということだが、民主主義は、結果以上に公正なプロセスが重要である。その意味で11月1日の住民投票に向けて進んでいるプロセスは著しく不公正と言わざるを得ない
まず、新型コロナ感染症が収束を見ていない中で、大阪市民の生活不安は大きく、住民投票の判断を下す余裕がない上に、特別区設置協定書そのものが、コロナ感染症のあとにくる社会像を考慮に入れていない。
次に、住民向けの説明会が回数が制限されているのに加えて、その説明資料も、市の特別参与から疑義が出されるほど推進に偏った資料である。9月初旬の世論調査で七割強の市民が説明不足と答えているのに対して、一方的な推進宣伝が税金を使って行われている
加えて、大阪市民の5%をこえる外国籍住民が投票から排除されている。住民投票の権利を求める市民団体の陳情に松井市長は、投票したければ日本国籍をとればいいと発言した。大阪市の都市の性格や成立過程を無視した発言であり、この点でも住民投票に問題ありといえる。
このような公平・公正を欠くプロセスのもとに大阪市廃止・特別区設置という地方自治制度上の大手術を行うことは将来にわたって禍根を残すことを、研究者としてだけでなく、半世紀にわたって大阪市民であり続けた市民の一人として懸念する。インフォームドコンセントをとる環境には全くない。

長友薫輝(三重短期大学・教授)社会福祉学

研究者というだけでなく大阪市で育った一人として、この事態は看過できません。
阪市民に是非を判断する材料が、提供されていないことに憤りを感じます。アンフェアでかつ虚構に満ちた説明を繰り返す手法の危険性は、映画『独裁者』でチャップリンが伝えたかったことではないでしょうか。

下地真樹(阪南大学・准教授)経済学

仔細に中身を検討しても、存在しない二重行政に依拠した存在しないメリットの喧伝、希望的観測によるコストの過小評価等、賛成できる要素は全く示されていません。賛成反対を離れて考えたとしても、中立であるべき府市の広報は賛成に偏った不公正なものであり、維新の会による行政の私物化と断罪せざるをえません。
新型コロナ・ウイルスの流行は終息していません。私たちは依然として危機の最中にあります。あらゆる社会的リソースを危機の克服に向けるべき時に、どうしてこのような不要不急の政策を強行するのでしょうか。人々の生命や安全を軽んじる松井市長・吉村知事の姿勢には、強い憤りを抑えられません。

西寺雅也(名古屋学院大学・元教授)自治体経営学

市民自治の観点からみて、現在の大都市制度が大きな課題を抱えており、改革を進めることが必要であることは論を待たない。しかし、今回大阪市を解体し、あらたに4つの特別区を設置しようとする動きは市民自治を拡充することを目指すことを目的とせず、むしろ後退の虞がある。それというのも「解体」は大阪市の持っていた権限や財源の府への集中を進める一方で、やせ細った特別区をつくることになるからである。
後戻りできない拙速な選択をすることのないよう、大阪市民に期待したい。
いま考えるべきは、大阪市としての市民自治の拡充である。

桜田照雄(阪南大学・教授)経営財務論

私は、2015年の住民投票にみられた「デマゴギーによる大衆扇動」という橋下氏の政治手法に,強い懸念をもちました。残念ながら,今回の住民投票においても,この手法は一段と強められ、「詐欺・瞞着・詭弁・恫喝・利益誘導」などあらゆる「大衆煽動」を大阪維新の会は繰り広げています。この政治集団にとって,「大阪市廃止」の実現が唯一の政治目標であるがゆえの行為だからでしょう。
彼らにとって,唯一の地域経済政策は、カジノ(賭博場)誘致です。この政策は,地方自治体の責務である「公共の福祉に反しない」という要件を決して充たしはしません。そればかりでなく、コロナ禍は,彼らが推進しているIRカジノというビジネス・モデルそれ自体が、もはや成立しえないことを白日のもとに曝しています。にもかかわらず,彼らはいまだにIRカジノ誘致に執着しています。
「大阪市廃止・特別区設置」は大阪市民の将来を危うくするものです。

木谷晋市(関西大学・教授)行政学・政治学

政治学的に分析するなら、大阪都構想とは、思い付きに過ぎない政策を否定された維新の会が、これを実現するために、権力と財源を府に、そして一人の知事に集中すること目指したものである。これを進めてきた手続きは、行政学・政治学的に考えて適正なものではなかったし、行われた説明は願望とまやかしに基づくものであった。また、構想は、地方制度に対する正しい認識に基づいたものではなく、税財政についての適切な方策でもない。維新の会が打ち出した政策が不適切であることは、橋下知事・市長の実績を見れば明らかである。手続き的に不適切な住民投票とは言え、とりあえずはこの構想を否決し、大阪府・市のあり方を考え直す契機とすることが得策であることは間違いないと考えられる。

山口英昌(大阪市立大学・教授)食環境科学

政令指定都市である大阪市を4つの特別区に解体する大阪都構想は、財源の低減により都市機能を低下させ、大阪市の発展と市民の暮らしを困難にするものだ。市と府の2重行政による弊害が過度に喧伝されるが、根拠はない。そもそも、大阪市・府の経済的地盤沈下は、東京への一極集中と、地方への財源投下の欠如によるもので、都構想によって解決できるものではない。

遠藤宏一(大阪市立大学・名誉教授)財政学・地方財政論、地域政策論

戦後の大阪府・市政、あるいは関西財界の都市・地域政策の失敗は、一週遅れで東京の後追い模倣をする公共・土木事業依存の間接的振興策(外来型開発)を続けてきたことにある。

しかし新世紀迎える頃、大阪の都市経済の「絶対的衰退」の原因は、関西系企業の本社機能が東京流出し、さらには学術・芸能・文化までも大阪からの離脱したことにあるということに気付き、その反省から官民あげて大阪・関西版「内発的発展論」ともいえる「関西再生」計画を構想し、その具体化への取り組みが提言されたことがある。ちなみにその典型は関西経済連合会『関西経済再生シナリオ』(1999年12月)等にみることができるが、それぞれ共通して、分厚い集積のある中小企業(「エクセレント・スモール・ビジネス」)や歴史遺産・伝統文化・芸能等の関西の強み(=「知的財産」)を現代的に再活用することなどを提言していた。

しかしその一方で、このようなビジョンの「推進主体」として「府・市統合」論も強調されていたという問題点も隠されていたが、今日の大阪都構想はこの側面のみが突出して顕在化したようにみえる。しかし「大阪都」という行財政制度をつくれば、東京都に匹敵する経済力・行財政力になるというのは本末転倒した錯覚としか言いようがない。

澤井 勝(奈良女子大学・名誉教授)財政学

大阪市廃止と権限が制限された4区の設置によって、生活を直接支える仕事が市民からは見えにくくなり、アクセスしにくいものになるうえ、ばらばらになる恐れが強い。たとえば、現在は大阪市と24区が分担して高齢者を支えている「介護保険制度」ば、4区がつくる一部事務組合に移され、窓口も担当職員も見えにくくなる。一部事務組合の長は区長の互選で選ばれる。その議員は4区の議員から選ばれ、派遣される(普通、会議は年に2回ほどしかない)。このように市民から遠い存在となる。それに一部事務組合の職員は、介護の現場から遠く、区の職員や事業所の専門家との連携は今以上に難しくなることは目に見えている。高齢化社会で求められる介護、医療、福祉を統合した「地域包括ケア」からは遠ざかる一方となるに違いない。当然医療費を下げることはますます困難になる。それが若い世代の負担をより重くすることが強く危惧される。

和田幸子(神戸市外国語大学・元教授)国際経済論

大阪都が誕生し、二重行政がなくなると言われていますが、市立病院がリストラされるなど、これまで長年築き上げてきた科学や文化の蓄積、生活のあり方などが、「合理化」や「効率」の名のもとに切り捨てられるのではないかとの危惧を抱きます。あまりにも「効率追求」に走る事は社会を活性化させる事にはならないでしょう。

田結庄良昭(神戸大学・名誉教授)地質学

大阪都になれば大阪市は解体され、4つの特別区に分割され、大阪市はなくなり、元には戻ることはできません。大阪市がなくなるのです。
特別区の役所へと今でも少ない職員も再配置され、まとまって取り組むことが困難となり、住民サービスは確実に低下します。
また、今の大阪市の財源は大阪府に吸収され、特別区にどれだけ配分されるのかは、府の条例で決められるので、不透明で、財源が明確ではありません。
納めている税金が現在の大阪市民に使わられるとは限りません。特別区への再編効果も地下鉄やバスなどで、決して2重行政を解消するものではありません。
さらに、市民向けの各種施設も分割されるので、福祉施設等の市民施設も存続が難しくなり、大阪市民にとって大きな問題が生じます。

三星昭宏(近畿大学・名誉教授)交通計画学、福祉のまちづくり学

大阪都構想は「思いつき」を何らの検証・討議のないまま、あたかも大阪が東京都と並ぶ発展をとげるかのような幻想をふりまく非科学的なものであり、「構想」の名に値するものではありません。「都」という名称すら与えられず単なる意味不明の統合・分割案にすぎません。大阪は地域により個性がありその特徴に応じた発展をとげてきました。大阪市のまとまりに対応した自治体をなくし、無意味で無機質、ご都合主義的な区に分割することは歴史、風土の破壊でありそのような地域づくり・まちづくりは必ずや将来に禍根を残すものと考えられます。
私の専門からの懸念の一例を付記します。大阪府は維新の主導で2013年、保有する「泉北高速鉄道」を米投資ファンド・ローンスターに売却することを決めました。その後沿線市民と自治体の大反対で撤回され売却先は南海電鉄となりました。しかし泉北高速鉄道の高い料金を沿線利用者が長年払い続けてきたことにより蓄積した富を社会基盤形成目的ではない「外国の投資ファンド」に売ろうとした事実は地元では今も語られています。「鉄道は誰のものか」です。
都構想は無意味であるだけではなく、住民の自己決定を飛び越えた危険な施策ではないかと懸念する次第です。

川瀬憲子(静岡大学・教授)財政学・地方財政論

大阪都構想は政令指定都市である大阪市を廃止して、大阪府の下に特別区を設置するもので、市民から見てメリットといえるものは何もありません。市の消滅とともにその権限がなくなり、区の財源の大半が府に吸収されます。トップダウンによる「選択と集中」のもとで、カジノ誘致を含む大規模公共事業が推進される一方で、公務員の削減と生活に必要な市民サービスカットがさらに進むことになります。しかも、行政区が統合されるため、これまで区の単位で行われてきた福祉や防災などのサービス機能が低下します。平成の大合併で広域的な合併を経験した市町村では、こうした問題が顕著に表れました。歴史ある大阪市の解体を促し、民主主義や住民自治を否定する大阪都構想には重大な疑義があります。

真山達志(同志社大学・教授)行政学

地方制度や自治制度を大きく変えるには、十分な検証と議論が必要である。誰にとってのどのような問題があるのか、その原因や背景が何であるのかを分析し、その問題を解決する必要性に合意が得られたなら、複数の解決手段・手法を比較検討するというプロセスを経て、はじめて改革が可能となる。今回、2度目の住民投票を実施するというのに、いまだにこのようなプロセスが欠如している。しかも、市民に正しい判断をしてもらうための正確で公平な情報提供においては前回より後退している。一見、民主的な印象を与える住民投票でカモフラージュしているが、今の大阪市の状況は、手続的にも内容的にも民主主義と地方自治の危機である。

平岡和久(立命館大学・教授)地方財政学

道府県と政令市とのいわゆる「二重行政」については、多くの場合ほとんど問題になっていないことから、そもそも政令市を解体する理由にはならない。そのような理由にもならない理由で大阪市が廃止され、分割された特別区が失う財政権は大きなものであり、大都市税制である事業所税や都市税制である都市計画税を失うばかりか、すべての市町村が有する固定資産税や法人住民税までも失う。特別区に対する財政調整があるから問題ないというのは、課税権の重要性を無視するものだ。大阪市民はバラバラにされたうえに一般の市町村がもつ課税自主権すら大幅に失うのである。大阪市民は、24区の地域共同体を基礎に大阪市という共同体を基礎とした自治体を形成し、継続・発展させてきた。「大阪都構想」が通れば、大阪市民は共同体としての大阪市を失うとともに、共同体がもつ大都市行財政権限を失うことになる。その損失は計り知れない。

波床正敏(大阪産業大学・教授)交通計画、国土・都市計画

報道によると,府と市の特別顧問の話では,都構想は大阪を副首都にするための布石だそうだ.これは「表の布石」.だが,残念ながら大阪は副首都には向かない.副「首都」の必要性が顕在化するのは首都直下地震や富士山の降灰などで東京が機能しなくなったときだ.歴史的に見てこれら災害は南海トラフ大地震とほぼ同時期のことがある.南海トラフ大地震発生時には大阪の平野部では大きな揺れに見舞われ,大阪市内西側では大津波の被害が心配される.建物だけ揺れに耐えても都市は機能せず,副首都大阪は絵に描いた餅だ.
「裏の布石」はこう見える.大阪市を4分割することで60〜75万人規模の基礎自治体がができるが,現行制度下では個々が政令指定都市になれる規模だ.堺を含め,府下には5政令市が復活可能なわけで,権限の強い市長ポストを増やせる「布石」である.特別区の政令市化は特別顧問の著書「東京都政」(2003,岩波新書)のp.207に書いてあるアイデアでもあるが,二重行政を批判しながらも結果として多重行政を目指す方向に歩むという矛盾が存在する.
このように,表の布石は絵に描いた餅,裏の布石は焼け太りへの道ということである.

遠州尋美(元大阪経済大学教授・みやぎ震災復興研究センター事務局長)地域政策学

理由らしい理由と言えば「二重行政解消」が唯一と言える都構想。その本音が大阪市の予算を吸い上げて,大規模開発や大企業奉仕に自由に使える財布が欲しいということにあることは間違いない。「二重行政解消」を声高に叫ぶことは,市民のくらしをないがしろする維新の政治姿勢を自ら暴露するものに他ならない。危機管理の基本は「ダブルチェック」,東日本大震災の経験から導かれた減災の基本は「多重防御」であることを思い起こして欲しい。安心・安全のくらしを守る「人間の安全保障」に必要なのはセーフティーネットの重層化だ。無駄のない効率的な行政は必要でも,二重行政解消を口実に庶民のくらしを破壊する都構想を許すことはできない。

河田恵昭 (京都大学・名誉教授) 防災学

「防災・減災に未熟な大阪都構想」 防災・減災は選挙の票につながらないと素人政治家は判断し、今回の大阪都構想における大阪市の区割りや大阪府との役割分担において、防災・減災は全く考慮されていない。しかし、南海トラフ巨大地震は今にも起きかねないほど危険である。それだけでなく、もし谷町筋に沿って南北に走る上町断層帯地震が起これば、現状では、大阪市だけでなく大阪府全域が壊滅する。市民の安全・安心を守るのは大阪市行政の最重要課題であるにもかかわらず、票につながらないから大阪都構想では全く触れられていない。地震と津波で大阪市営地下鉄や水道が壊滅すれば、大阪市の繁栄どころか、津波や火災で多くの市民が犠牲となり、復旧・復興もままならず、これが致命傷となり大阪市はさらに没落する。民営化の前にもっと地下鉄と水道をはじめ、社会インフラの防災対策を進めなければならない。

岡田知弘(京都大学・名誉教授、京都橘大学教授)地域経済学

「大阪都」構想推進する大阪府知事・大阪市長は、大阪市を解体して大阪府に併合することで、「大阪経済が活性化する」と繰り返し主張しています。地域経済学の視点からみると、この議論はかなり怪しく、むしろ大阪経済のさらなる衰退を招く可能性が強いといえます。
そもそも大阪経済の衰退や財政危機は、「二重行政」によるものではありません。1980年代以来の経済のグローバル化の結果、大阪経済を担ってきた製造業が衰退したうえ、2000年代初頭の金融大再編によって大阪に本拠をおく住友・三和グループが解体・再編され、東京に本社・中枢機能を移したことが歴史的要因でした。加えて、関西新空港やATC、WTCといった巨大プロジェクト開発で「活性化」しようとしましたが、受注企業の多くは東京や海外企業であり、大阪経済を潤すどころか巨額の借金を残しました。
「大阪都」構想でも、カジノや万博、リニア新幹線の建設、大阪スーパーシティの実現がいわれていますが、それらの利益を受け取るのは、ほとんどが外国資本を含む大阪府外企業です。大阪市が4つの「特別区」に分解されると、現市域ではさらなる格差と貧困が拡大するでしょう。
今必要なのは、現在の大阪市や区の行財政権限と住民自治機能を強めて、大阪経済の圧倒的部分を担っている中小企業群の再投資力を高め、主権者である住民の福祉の向上を図ることです。

石川康宏(神戸女学院大学・教授)経済学

「大阪都構想」は、政令指定都市として多くの権限や財源をもつ大阪市を解体するもので、それが大阪市民のくらしにプラスになるという推進派の理屈はまるで成り立ちません。実態は関西財界が長く求めた、より巨大な財源をもって大企業に奉仕する広域の地方経営体をつくることでしょう。
このコロナ禍の大変な時に、市民サービスを後退させる「大阪市解体」を「改革」の名でゴリ押しするのは、行政が市民に与える「行政災害」あるいは「維新災害」以外の何ものでもありません。私も住吉区と淀川区に12年間くらしました。大阪を愛するみなさん、いっしょに大阪市を守り、市民の手で、いっそうよりよい街に育てていきましょう。

菊本 舞(岐阜協立大学・准教授)地域経済論

都構想」では、「5特別区への再編後も、大阪24区の地域の伝統がなくなる訳ではない、平成の大合併のときと同じように、地域のコミュニティや伝統、文化は消えない」と述べています。しかし、平成の大合併を経験した多くの市町村の住民が現実に直面していることは、身近な地域の催事や旧市町村の範囲で行われてきた伝統行事等の活動及び財源の縮小・廃止であり、身近な地域社会を単位とする住民たちの思いと行政との間に大きな距離が出来てしまったということでした。いまの大阪に必要なことは、住民同士が互いに親しみや誇りを持てる地域を基盤に、長い時間をかけてこそ培われる伝統や文化を生かし、それを地域経済の礎とできるようなまちづくりであり、それは大阪市の廃止ではないでしょう。

塩崎賢明立命館大学教授都市計画学

「都構想」は大阪市を廃止し4つの区に再編統合するというが、大阪にとって何が良いのか全く不明です。むしろ、大阪市の財源が府に吸い取られ、市民の自主的なまちづくりができなくなるなど、マイナス面が大きい。4つの区への再編というのは市町村合併と同じで、地域自治を破壊し、災害時に大変な困難をもたらすことが、東日本大震災で明らかです。
今回の案では現在の大阪市庁舎を使う「北区」以外の「淀川区」と「天王寺区」が北区本庁舎に間借りして、圧倒的に多くの職員を配置します。また「中央区」は大部分の職員をATCで執務させることになっています。これらは大阪の喫緊の課題である防災対策の観点から決して看過できるものではありません。賛成派のまことしやかな宣伝に惑わされず、大阪市民が主人公となって明日の大阪を築いていくべきです。

水谷利亮(下関市立大学・教授)行政学・地方自治論

「二重行政」と言われるものには、単にムダなものもありますが、二者が互いに協働・補完し合うことで、実は全体として市民の生活や企業・団体の活動などを支援・保障できているといった、圏域で「自治の総量」(自治の量と質)を維持し高めている「良い二重行政」もあります。
一般の市町村とは異なり、政令市には、大都市だからこそ生じる社会的・経済的な問題に対応し、大都市特有の市民ニーズに的確に応答できるように、一部の事務以外は府県とほぼ同等の自治体行政を実施できる権限が与えられています。大阪市は政令市として、大阪府内の他市町村エリアの課題やニーズへの対応とは異なって、独自に「良い二重行政」も含んだ
行政サービス・地方自治に取り組むことができてきたから、関西で神戸市や京都市と並ぶ「三都」としての都市格をもっているのです。
問われているのは、市民・地域の課題や切実なニーズと向き合って個別具体的な行政サービス・政策を立案して実施する市長や市役所の行政能力であり、制度を変えれば政策が良くなるわけではけっしてないと考えます。今後も大都市・「大阪」の生活と文化と街を発展させる点からみれば、単純に「二重行政の解消」を名目に大阪市を廃止・解体して政令市でなくする「大阪都構想」は、大阪市が「自治の総量」を高めている現実と大阪市がもつ今後の可能性をつぶしてしまうもので、重大な問題があります。

永山利和(元日本大学・教授)労働経済論、中小企業論担当

『“大阪都”は維新の幻想。多くの市民には不幸せに、権力者・大企業には幸せに』
住民投票で維新案が支持されても、“大阪都”にならず、名称は大阪府のままです。“大阪都”は名称も幻想ですし、政令都市大阪市が永遠に消えてしまいます。
幻想自治体“大阪都”は、政令指定都市が有した大阪市財政権の喪失と国庫補助金削減に加え、府への組織統合で新設区の財政が縮減され、区保有資産も府に没収され、総じて大阪市区域の財政力が毀損されます。また市が担った各種住民サービスが集約化、大型化され、各種住民サービス提供は希薄になり、総じて市民の不幸が膨らみます。
逆に強大化した府の権能、財力が幻想の“大阪都(府)”による自治破壊と大型開発に注入され、権力者・大企業が幸せになります。
賢明な市民は幻想に惑わされないと信じます。

藤井聡(京都大学大学院・教授)公共政策論、国土・都市計画

『大阪都構想』と呼ばれる過激な行政改革は、あらゆる学術的視点から考えて「論外」としか言いようがない。第一に、市の廃止は「大阪市」という一つの社会有機体の「死」を意味し、柳田国男が徹底批判した「家殺し」に他ならない。第二に、それに伴って大阪市民が税の支払いを通して享受している厚生水準が大きく毀損する。第三に、大阪市という大きな活力を携えた共同体の解体で、それによって支えられていた大阪、関西、そして日本の活力と強靱性が毀損し、大きく国益が損なわれる。最後に特定公政治権力がこうした危険性についての議論を隠蔽し、弾圧したままに、特定の政治的意図の下、直接住民投票でそれを強烈に推進しようとしている。つまり、それはその中身も推進手続きも論外中の論外の代物なのである。

池田清(神戸松蔭女子学院大学・元教授)人間科学

新型コロナが私たちに突きつけたことは、市町村自治体の充実なくして、住民の生命と健康、くらしを守ることができないということです。そのことは、この間の「地方行政改革」のもと、自治体の保健所機能が低下したこと、さらに大阪市住吉市民病院の閉鎖により、妊婦が安心して子どもを産めない弊害があらわれていることをみても明らかです。しかし、『大阪都構想』は、住民の生命と暮らしをまもる砦となるべき大阪市を廃止し、住民の自治権や自治財政権がきわめて脆弱な特別区をつくろうとするものです。

高寄昇三(甲南大学・名誉教授)財政学・行政学

【特別区財政力の貧困化】
特別区財政は一般財源ベースで、自主財源は3分の1とあり、残余は府・区の依存財源である調整財源しかない。国の交付税補填機能の不全で、過疎町村以下の財政力しかない。東京特別区との対比でも半分以下で、生活行政すら困難である。

木村 收(大阪市立大学・阪南大学元教授)地方財政学

・廃置分合では合併を加算(タシザン)とすると、分割は割り算(ワリザン)で次元のちがう難問。協定書が示したマンモス一部事務組合は割り切れないことの象徴である。
・そもそも大阪市は指定都市として多様な事務事業を総合的に展開する有機的総合行政体として定着している。いまこれを廃止・分割しなければならない理由はない。
・東京都(その紋章は東京市章を承継)の都区制度は戦中戦後の歴史的経緯から生れた東京の大都市制度。大阪市を廃止・分割して府区制度を設けようとするのは大阪府の集権主義の具体化であって、これまでの地方分権の流れに反している。いま問われているのは新型コロナへの幅広い対応である。

鶴田廣巳(関西大学・名誉教授)財政学

1.維新と公明が進めようとしている「大阪都構想」の問題点は、「大阪の自治を考える研究会」が公表している文書に言い尽くされれています。
2.「大阪都構想」などという東京後追いの政策で大阪の「再生」は不可能です。東京都の23特別区の平均人口約42万人に対し、大阪市の4特別区の平均人口は実に67万人です。各特別区は政令市並みの人口規模になるにもかかわらず、財源の多くを大阪「都」に吸い上げられますから、住民サービスは改善されるどころか、もたらされるのはサービスの切捨てと住民の皆さんの困惑・不安だけでしょう。気づいた時には、もう元の大阪市に戻ることは不可能なのです。
3.大阪府と大阪市の二重行政が税金のムダづかいを生むという主張は、なんとなく正しいように聞こえます。しかし、二重行政の「解消」という名目で実際に切り捨てられる行政サービスは、住民福祉に直結するサービスばかりです。
4.都市、とくに大都市は長い歴史によって作り上げられています。大阪市は、戦前の名市長関一のもとで御堂筋など都市基盤の整備や環境政策、文化行政などの分野で全国の都市の手本となる成果を挙げました。「煙の都」を「住み心地よき都市」にするための施策は全国の都市の模範ともなりました。大阪の再生は、こうした先例にこそ学ぶべきです。大阪市の廃止によって再生を果たすことは決してできないでしょう。大阪の地盤沈下は東京一極集中のためです。大阪の再生には、大阪文化の振興と都市づくりを結びつけ、誰もが住みたくなる都市にする、都市格を高めることこそが正道です。

村上弘(立命館大学・特別任用教授)行政学・地方自治論

私は個人的には、「大阪市廃止構想(大阪都)」、「便利な二重行政」、「弱すぎる特別区」というのが問題だと考えます。「大阪市廃止で住民サービスが下がる」に加えて、「大阪市は、(各国で首都に差を付けられる)『第2都市』の整備発展に貢献してきた」も事実です。したがって、「市の廃止で、大阪の成長が止まる、衰退」します
(https://satoshi-fujii.com/wp/wp-content/uploads/2020/10/tokoso_risk_2020.pdf 参照)
一方、1942年のミッドウェイ海戦については、日本が大敗した原因として、目的があいまい(複数)、手段がもたらす効果・デメリットについて主観的シミュレーション(希望的観測)をしていた等が指摘され、失敗した後も、国民にマイナス情報をいっさい知らせない「大本営発表」になってしまいました。大阪市廃止を知らさず、小さくしか報道させず、そして自分たちもその効果(必要性)、デメリットを検討しない、今回の推進スタイルに似ているという点も指摘できます。
批判者への維新のSNS、電話攻撃は、前の住民投票の時の市長よりは弱まりましたが、それでもなお、マスコミの維新への「忖度」が大いに危惧されます。本来なら、世論調査の質問に「大阪市の廃止に賛成・反対?」を尋ねることが必要です。
最新の吉村知事らの新書『大阪都2.0』を読むと、昔のWTCとりんくうビルの赤字事件を繰り返す(でもバブル期、政令指定都市を持たない都県でも、東京都の臨海副都心、宮崎県のシーガイアのような過剰・赤字投資事件は起こった)ほかは、水道、消防の統合を目的として掲げるだけ。すなわち、二重行政のムダな部分は維新統治下でほぼ解決済みで、便利な部分が残っています。5年前よりもさらに、大阪市廃止構想(大阪都)の必要性は減じているのです。
京都などでは串カツのソースは各自の器に入れるので、同種のサービスを複数の機関が供給する「二重行政」です。でも、コロナウィルス以前の大阪のように「一元化」された大きな器に入れると、各人がたっぷり取ろうとしてかえってソースの消費総量が増えるとか、強い者が決める1種類のソースに皆が従わなければならないとか、リスク管理もできないのでは?

小野田正利(大阪大学・名誉教授)教育学

2012年3月に維新の会が中心となって成立させた「教育基本条例」以後、大阪の教育は危機的状況に直面している。目の前の課題に黙々と取り組んできた優秀な教師たちが大阪を離れていった。残った教師・新しく教師たちは、踏ん張りながらも疲弊の局地にある。中1から中3まで府独自の「チャレンジテスト」実施が高校入試に大きな影響を与え、大阪市の統一テスト、定期試験や実力試験も加わることで、中3生は平均で年間21日もテスト漬け(授業日の1割)の日々を過ごす羽目になって追いつめられ、学校から躍動感が失われ続けている。
大阪都になれば、政令指定都市として有していた独自財源の多くが府=都に吸い上げられる中で、政令指定都市が有していた優秀な教員確保のための採用や研修の権限は喪失し(「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」第58条)、学校設置運営に関わる学校の条件整備も、4つの特別区ごとで大きな差異が生まれ、より劣化し貧弱になっていくことは明確である。
コロナ禍による不況で財政収入は激減し、向こう5年近くは改善の見通しが立たない。都構想の根幹となる最も重要な根拠が崩れたことは明らかだ。そんな中で大阪市を廃止してしまえば「成長戦略」ではなく「破滅戦略」になってしまう。

道野真弘(近畿大学・教授)商法・会社法

2回目の住民投票ということ自体が、前回の約束を反故にするもので、言葉が軽いことを証明しています。そして、言葉の軽さは、大学名の英語表記や、あるいは東京都特別区にある北区、中央区をそのまま区名として使おうとする点にもみてとれます。
制度というものは恣意的な運用をさせず、誰がやってもうまくいくように設計されるべきものですが、特別区設置協定書は裁量の余地が大きく、言葉に責任をもたない方が運用すれば、恣意的にどうにでもできる内容になっています。
なお、国会の開催とか、副首都機能をもたせることと大阪市廃止・特別区設置は論理必然ではありません。地方分権を政府が本気で進める気があれば、今のままでできます。

白藤博行(専修大学教授)行政法

このコロナ禍中に、「大阪都」に看板を変えさえすれば、すべての問題が解決されるかのごとき錯覚を住民に覚えさせ、自らの政治の無責任を覆い隠す浅はかな所業を許してはならない。住民投票で、「民の力と知恵」を示すべき時だ。

元橋利恵(大阪大学・助教)社会学、ジェンダー論

コロナ禍のもとで従来社会に構造化されてきた差別が露呈しています。ジェンダーの視点からは、人の生命や生活の維持に関わる活動に従事しながらも不安定雇用であったり家庭内で無償のケアを担うことが多い女性たちが収入減や負担の増大により生活が脅かされていることが深刻です。そのしわ寄せは、子ども、お年寄り、障がい者などケアを必要とする人たちにより集まっていくことも予測されます。そのような中でまず行政がするべきことはコロナ禍を機に差別を是正し働きかたや生活の保障を見直し築いていくことではないでしょうか。都構想を押し進めようとし負担やコストのかかる住民投票を決行することが理にかなっているとは思えません。

晴山一穂(専修大学・名誉教授)行政法

コロナ禍の下、いまこそ大阪府民と大阪市民の生活を守るため二重、三重の手厚い行政措置が必要になっています。「二重行政打破」の名のもとで大阪都構想を強行することは、住民生活破壊以外の何物も生み出さないでしょう。

梅原英治(大阪経済大学・特任教授)財政学

テレビの記者会見などを見れば、大阪は吉村知事と松井市長の2人が並ぶが、東京は小池知事ひとりだけだ。ここに象徴されるように、特別区の存在感は薄く、自治権は弱い。戦後東京の特別区は自治権の制限に苦しみ、拡充を求め続ける歴史だった(いまも)。それは都制が太平洋戦争完遂のための「帝都」として設けられ、統治の便利さゆえ戦後も継続された「戦時集権体制」だからだ。東京都制と大阪都構想は異なるところもあるが、都への権限と財源の集中、そして特別区の限られた自治と都への財政従属という本質に変わりはない。大阪市民は自らの財源を都に吸い上げられた上で、都の財源に依存して生きることになる。これほど地方自治と地方分権の時代に逆行する構想はない。大阪は東京の二の舞になってはならない。大阪市が存在してこそ、大阪市民は自らの願いを実現し、未来を切り拓くことができるのだ。

山崎文徳(立命館大学・教授)技術論

大阪市が廃止されると政令指定都市でなくなります。大都市は、市街地や企業が密集し、昼間人口も多く、超高層ビルや地下街が広がり、その経済状態や生活水準が周辺都市にも影響します。政令指定都市になれば、都道府県から権限や財源が委譲され、地域の実情に合った行政サービス、大規模災害時の避難所運営や仮設住宅整備の権限が与えられます。
大阪府の海抜0メートル地帯(40km2)には、108万人の大阪市民が生活しています。災害は、自然現象に社会的要因が加わって発生・拡大します。大都市の問題や地理的な脆弱性に適切に対処し、二重・三重の対策をすることで、被害の発生や拡大が防げます。しかし、維新政治のもとでは、災害対策は重視されず、予算は削減されてきました。「都構想」でも、災害対策や教育・医療・福祉などの住民サービスを削り、大阪市民から吸い上げた財源をカジノや大型開発に投じようとしています。
政府の新自由主義政策のもとで、感染症対策の要となる保健所は、1992年の852ヵ所から2019年には472ヵ所に減少しました。大阪でも、感染症の原因を究明して被害拡大を防ぐために重要な役割を果たす大阪市立環境科学研究所と大阪府立公衆衛生研究所が、「二重行政」の一つとして2017年に統合・行政法人化されました。新型コロナウイルスの感染対策のためには、こうした流れを根本的に転換する必要があります。大阪都構想は、防災や感染症対策など、大阪市民のくらしと命を守る観点から大きな問題があるといわざるを得ません。

山崎圭一(横浜国立大学大学院・教授)経済学、開発論

5年前、2015年5月の住民投票で否定された都構想を、なぜ再度持ち出すのか、理解できません。そもそも大阪市を廃止することになる破壊的な政策で、大阪という都市、まちにとって百害あって一利無しの構想です。大阪都をつくっても二重行政は解消しません。そもそも地方自治制度において各レベルの間で一定の調整課題が生じるのは当然で、これは都構想で消滅するわけではありません。財政的にも大赤字になる構想であり、市民の税負担は増えます。結局は、増税とサービス削減に結果する単なる行財政リストラ案で、破綻しつつある新自由主義の構想です。そもそも地方行政制度の再編という難しいテーマを、新型コロナウイルス感染拡大と闘っている最中に持ち出すことは、適切だとは思われません。このタイミングでの再度の住民投票に、憤りを覚えます。

堀雅晴(立命館大学・教授)行政学

維新のいう「大阪都構想」は、その危険性な本質である「大阪市」をリストラして、中身のはっきりしない「特別区への格下げ」という“粗悪品”である。大阪「都構想」の原点は何だったか。橋下知事時代にまとめられた「大阪にふさわしい新たな大都市制度を目指して」(大阪府自治制度研究会、2011年1月)はいう。「大阪の問題の本質は、府市間の二重行政の存在というような表層的な問題」ではなく、「言わば『二元行政』とも呼ぶべき状態」(p.1)である。従って従来の「都区制度、政令指定都市制度といった一律の制度」(p.3)では間に合わず、「府市が住民の立場に立って『大阪という大都市にどのような制度形態が最もふさわしいのか』協議を重ね、全体像を一致させること」(p.43)が原点である、と。

川端祐一郎(京都大学・助教)都市社会工学

一般に大規模な改革は、それによって失われるものが確実である一方で、得られる効果は不確実である。大阪都構想の主要な効果と言われているものに対しては疑念を持たざるを得ないのが現状であり、性急に改革を進めることが合理的であるとは思われない。第一に、「二重行政による財政の無駄の削減」は、仮にあったとしても小規模(嘉悦大学に委託された試算でも1年あたり数億円)に留まることが指摘されており、都構想の実施コストに見合わないと考えられる。第二に、大阪市を4つの中規模自治体に分割し、公選の首長と議会が新たに誕生することから、住民により密着した行政サービスが提供できるという「ニア・イズ・ベター」の主張があるが、前提として財源と権限を縮小させた上で分割するのであるから、単純に「ベター」であると言えるわけではない。第三に、大阪府と大阪市の対立が緩和され、広域的な都市開発プロジェクトの意思決定が円滑化することで、大阪の成長が促されるとされており、決定に関与する主体が限定されれば円滑化するのは当然と考えられるにしても、それはまさに「ニア・イズ・ベター」を犠牲にすることを意味するのではないか

宮川愛由(京都大学・特任准教授)公共政策

果たして、何割の大阪市民が、大阪都構想の実現によって「大阪市」が無くなる、という本当の意味を理解しているだろうか。都構想が実現すれば、大阪市という日本を代表する大都市であり、歴史・文化のある「都(みやこ)」は解体され、二度と元には戻れない。大阪市民は分断され、自治権や財源の多くを失う。大阪の衰退は国益の棄損にもつながる。イメージや空気に流された投票行動は決して許されないのである。

内藤林(大阪大学・名誉教授)船舶海洋工学

確たる根拠も無い、うがい薬を吉村知事、松井市長が「コロナに効く」とテレビでの大宣伝には吃驚した。大阪の文楽を初めとした伝統芸術に対する態度などの見識の無さは、維新の指導者の特徴か。閉館された大阪市の「なにわの海の時空間」には、展示物として市が建造した「浪華丸」が鎮座している。建造当時の手法で再興され、大「坂」が日本経済を支えた海運の歴史を飾る誇るべき船である。
学問的にも広く評価される船だった。これを破棄することを言い出したのは、維新元市長の橋下氏である。
過去の人々の蓄積を軽視し、今を浅見で解釈する指導者達が先導する「都構想」は、華々しげな宣伝の中に危うさが漂っている。

西川榮一(神戸商船大学・名誉教授)工学

吉村大阪府知事・松井大阪市長らは、5年前否決されたものとほとんど同じ、大阪市を廃止する特別区設置案(大阪都構想)をまたも住民投票にかけるという。成長を続けるために二重行政の無駄をなくし大阪都にするというのである。この5年間知事・市長らはどんな施策を進めてきたのだろうか。無駄をなくすとして、府公衆衛生研究所と市環境科学研究所の合併、府大と市大の合併、保健所の大幅削減、病院の閉鎖などが行われた。成長戦略ではIRカジノ、万博を柱に掲げ、そのために大阪湾の埋立て、淀川の堤防をくりぬいての自動車道路建設などを急いでいる。カジノは刑法も禁止する博打産業、万博は“作っては壊す”浪費文化である。いま人類社会が求められているSDGsとはまるで逆方向である。大阪都に行財政権を集め、この5年間のような成長戦略を一層強力に押し進めようというのが「大阪都構想」と解される。これでは産業はもとより教育や文化活動にいたるまで、成果主義で煽りたてる競争社会となろう。自然環境どころか社会環境をも破壊されかねない。

今井良幸(中京大学・准教授)憲法・地方自治法

現在の「大阪市」は一般に憲法上の地方公共団体であると解されており、歴史的な経過が異なる東京都とは異なる大阪府において、「大阪市」を廃止することは憲法で規定する「地方自治の本旨」に反する事態が生じるのではないかと懸念されます。また、新たに設置される「特別区」は憲法上の地方公共団体とは解されておらず、その制度的な根拠は立法政策に委ねられることになり、その存在は不安定なものであると言わざるを得ません。現行法制度上でも二重行政を排除し、住民の意向を反映する運用を行うことは十分可能であるにもかかわらず、上記のような不安定な制度に移行することについて、情報が不十分なまま市民の決定に委ねられることには重大な問題があると考えます。

島影美鈴(元国立大阪病院・研究員}ウイルス学

現在の大阪府・市は利益第一主義と財政削減を理念とした自治体運営を進めており、公共的倫理を忘れているのと思います。
IR(カジノを含む施設)建設もその一つです。大阪都構想によって権限と財源が大阪府に集中することによって、その傾向が強くなると考えられます。未来の子どもたちに誇れる地域と国を伝承していくことが私たちの使命です。

上野谷加代子(同志社大学・名誉教授)社会福祉学

1、政令指定都市から特別区に移行した場合、すべての権限の低下により財政、人事、機能面での自治権が崩れる。(権限の低下)
2、とりわけ高齢者保健・福祉サービスの低下は否めない。介護保険を4特別区連合とせざるを得ないが、その場合、他の高齢者福祉はそれぞれの特別区で実施するので、地域共生社会づくりや包括ケアの体制は崩れる。(地域共生社会づくりや包括ケア体制の崩壊)
3、外国にルーツがある子どもの生活課題や、医療的ケア児等、刑余者等特別区で扱いにくい課題が今日的課題である。(今日的福祉課題への対応が困難)
4、特別区になった場合、行政職員の資質向上の担保がない。たとえば、今日の児童問題は複雑・多様であり、児童相談所等を特別区に設置したとしても、特別区で担うのは厳しい状況である。大阪市職員採用だから、優秀な方々が採用試験に全国から来てくれるが、いくつかの大学生に聞くと、働く場所が特別区?という反応である。(資質の低下、魅力ある行政職でなくなる)
5、二重行政どころか三重行政になる。
6、各種審議会はどうなるのか。特別区で実施するとすれば、事務量が多くなり行政職員は多忙を極める。なくなる(減らすかもしれない)とすれば市民にとってますます権限の行使が減少し、だれのために改革か不明。(行政職員の多忙化、市民不在の改革)
7、社会福祉協議会や民生委員・児童委員協議会の再編によって、地域福祉推進機関、団体が崩壊する。今日まで大阪市が築いてきた民間活力と行政との協働がつぶれる。(社会福祉法人や生涯教育、文化、芸術等推進団体は市民力形成の基盤)
社会福祉サービスは、住民の基本的な生活を守るためのものであり、関係団体や機関、専門職等との話し合いや説明もない中、市民に対しての説明会を実施したことにする態度はいかがなものか。コロナ禍での住民投票は、禍根を残すと思います。

和田 武(和歌山大学・客員教授)環境学

効率最優先の『都構想』は、多様性や創造性を犠牲にし、大阪の歴史、伝統、文化、芸術、教育、科学等を破壊する内容を含んでいます。 先行して実施された、大阪府立大学と大阪市立大学の統合や大阪バイオサイエンス研究所等の複数の研究所の廃止は、大阪の誇るべき知的財産を自ら軽視、廃棄する行為でした。さらに、大阪市の消滅により、これまでの政令指定都市としての多くの権限等も失い、市民生活についても大きなマイナスをもたらします。このような『都構想』はとうてい容認できるものではありません。

中山徹(奈良女子大学・教授)都市計画学

今まで進めてきた大阪のまちづくりを抜本的に見直し、国際化時代に相応しいまちにつくり変えるべきである。そのためには指定都市としての権限、財源を最大限活用すること、現区役所を軸とした参加型まちづくりを徹底させることが重要である。しかし大阪都構想では、大阪市を廃止するため、まちづくりに関する権限が大きく縮小する。とりあえず現区役所は残すとしているものの、財政難から縮小に向かうのは容易に予測できる。その一方で、従来型まちづくりの延長であるカジノ誘致、臨海部の大規模開発などは進めようとしている。このような大阪都構想では大阪の新たなまちは形成できず、衰退への道を歩むだろう。

鎌田幸夫(京都大学大学院・非常勤講師)法律学

労使関係と法今回のコロナ禍で、グローバル経済の限界が露呈されるともに、国内経済も飲食、小売り、観光業を中心に大きな打撃を受けています。非正規雇用131万人の雇用が失わるなど雇用不安が広がっています。個人消費の冷え込みと景気悪化の悪循環となっています。「大阪都構想」とカジノや万博誘致の実現で地域の個人消費拡大や雇用拡大につながるものとは思われません。今、必要なことは、地方自治体の権限と財政を使い、福祉、医療、教育等の分野における地域住民に寄り添ったきめ細かなサービス提供とそのための雇用創設です。地方分権に逆行し住民サービスを低下させるものこそが「都構想」です。

薬師院仁志(帝塚山学院大学・教授)社会学

今回の案は、むしろ前回よりも無茶な計画だ。見かけの初期費用を約六〇〇億円から約二四一億円に減らし、いかにも経費を削減したように見せかけている。しかし、この経費削減は、新しく自治体を作るにも関わらず、その仕事を担う新しい庁舎を用意しないという無茶な計画の上に成り立っているのだ。大阪市の廃止後、新淀川区の職員の八割近く、新天王寺区の職員の半分以上は、自区内で仕事をする場所がなく、当面の間は新北区にある中之島庁舎(現在の大阪市庁舎)で働くというのである。また、どの新特別区も新庁舎を建てないため、当面の間は職員が区内各所の間借り施設などに分散配置せざるを得なくなっている。これでは、費用を節約したことにはならない。本来は必ず必要な費用を将来に先送りしただけのことである。しかも、こんな不安定な体制の中、災害や伝染病の流行にでも襲われれば、対処は極めて困難だと言わざるを得ない。

柴山桂太(京都大学大学院・准教授)経済思想、現代社会論

今回の住民投票で賛成多数となれば、歴史ある大阪市は廃止され、四つの特別区に分割されます。分割される過程で行政に混乱が生じるのは避けがたく、住民生活の質が低下することが懸念されます。大阪市民は、新たに設置された人工的な特別区が生活の単位になりますが、特別区は市に比べて権限が小さい上に、予算も府からの分配に依存することになります。名称も「都」にはなりません。市というまとまりがなくなり、生活の単位も四分割されてしまう。「府市あわせ」はなくなりますが、次に待っているのは「四区八苦」ではないのか。それだけの代償を支払って得られるメリットとは何なのでしょうか。私には「失うものは確実だが、得られるものは全く不確実」な改革の典型だと思えてなりません。

伊地知紀子(大阪市立大学・教授)社会学、文化人類学、民俗学、史学

今回の住民投票は、このコロナ禍下で実施するという暴挙です。
住民の生活を守る役目を担う自治体の長が進めるべきことではありません。
大阪市が廃止されると、暮らしの質を豊かにするスポーツセンターや老人福祉センター、子育てセンターなど施設が減り、子ども医療費や老人パスといった日々の安心への支えが削られていくのです。こうした住民の日常に関わる大切な内容について多様な意見に耳を傾けず、大阪市廃止のメリット・デメリットを丁寧に説明もせず、松井知事と吉村市長は住民投票を政治家と有権者の勝負の場にしています。大阪で起きていることは地域限定の話題にとどまりません。「よくわからないけど、動き出したんだから乗っておこう」という日本全体でよくみられる現象について、ここで立ち止まって考えるときです。

山田 明(名古屋市立大学・名誉教授)地方財政学

昨年6月から毎回「法定協議会」を傍聴して、怒りを膨張させてきた。協定書を見ても、大阪市廃止・特別区設置は、大阪府による大阪市の乗っ取りであることは明らかだ。特別区は政令市並みの人口だが、権限と税財源はきわめて脆弱で、住民サービス低下は避けられない。介護保険は特別区でなく、一部事務組合が担当し、高齢社会に対応できない。協定書一部は自治権を侵害し、コロナ禍での住民投票強行も「大都市法」の規定に違反するとして、関連予算の執行停止を求めて住民監査請求を行った。大阪市廃止・解体は大阪だけでなく、コロナ危機の日本社会に混乱をもたらす。いま求められているのは、足もとからの持続可能なまちづくり、コロナ対策である。

本多哲夫(大阪市立大学・教授)地域経営論・中小企業論

私は30年以上大阪市に住み続けている大阪市民の一人であるので、過去に大阪市が行ってきたことに対して多くの大阪市民が不満を持つ気持ちはよく分かる。とくにバブル期での大規模開発で大きな財政的損失を生み出してきたことには怒りを覚える。しかし、大阪市を廃止し4つの特別区にするという改編は明らかにやり過ぎである。大阪市民が相当な損をするからである。市内の財源の多くは大阪府に吸収されたうえでバラバラの特別区に切り分けられる。4つの特別区が他市並みに財政上独立しているのであればまだ良いが、そうではない。大阪府内のどの市町村にもみられない「大阪府への財政上の従属」が生じ、財源をめぐって大阪府とモメ続けるうえに、4つの特別区間でもモメ続ける仕組みとなっている。大阪市を存続させるほうが大阪市民にとってメリットが大きい。これは、学者という立場からも、一大阪市民という立場からも言えることである。

住友剛(京都精華大学・教授)教育学

児童相談所の増設も、教育委員会事務局内に担当ブロック制を設けることも、すべて政令市のままでも十分可能。公的施設を統廃合したり既存施策を整理して、浮いた財源で子育て世帯に助成金的なものを支給する施策も、財源の豊かな政令市だからこそできたこと。その政令市の解体に今、力を入れることよりも、疲弊した大阪の公教育や子ども支援施策の再構築に行政は力を入れるべきである。最後に、そもそも「重大虐待の防止」を当選時の公約にかかげた市長が、なぜ今、大阪市解体・特別区設置の取組みに力を入れているのか。本来の公約達成の仕事にもどっていただきたい。

荒井文昭(首都大学東京・教授)教育学

集権的な体制をつくるため、東京府・東京市が廃されて東京都・特別区がつくられた歴史的経緯を忘れるわけにはいかない。教育行政の領域でいえば、特別区には市町村に認められている、教員人事について意見を言う権限(内申権)もながく認められていなかった。それを変えていく契機の一つとなったのは、東京都中野区で取り組まれた教育委員準公選を求める住民の運動であった。大阪都構想では、東京都以上に特別区に自治を認めるといわれているようではあるが疑わしい。なぜならば、困難を抱える子どもたちの支援を地域で地道におこなってきた大阪市民の取り組みに対しては、支援の打ち切りなど、教育の地方自治を豊かにする政策をとってきていないからである。むしろ、大阪市民の不安をあおり立てて、「新しい都区」をつくるというフレーズのもとで、その実は、東京都の二番煎じを追求し、大規模な開発を大阪市民の声とは離れたところですすめることのできる仕組みをつくりたいのではないか。大阪には大阪固有の文化が形成されてきたのであり、大阪の地方自治を豊かにしていくことこそが求められている。

中村和雄(京都大学・非常勤講師)法律学

労働法住民の命と暮らしを守る自治体の役割を放棄するものこそが大阪都構想です。コロナ禍で自治体の役割が再認識されました。住民に寄り添って身近なところで住民の状況を把握しその地域にふさわしい対策を迅速にとっていくことが求められています。そのためには、住民に近いところでしっかりとした権限をもった自治体が機能する必要があります。大阪市を廃止し大阪都に吸収してしまうことはその要請に逆行するものです。十分に議論することが困難な状況の中で強行することは許されません。

大神令子(梅花女子大学・講師)キャリア形成論

所謂「大阪都構想」は、その基準となる協定書には成立後の具体的な市民の生活がどのようになるかが書かれていません。「その内容や水準を維持するよう努めるものとする」とは書かれていますが、その文言を担保するような具体的な施策は一切書かれていません。また、あくまでも維持でしかなく向上については書かれていません。これでは、特別区設置後が良くなるとは言い難いです。
例えば介護保険の劣化です。介護保険事業については一部事務組合が担うこととなっていますが、この一部事務組合は府でも特別区でもなく財源を持たない中途半端な組織です。介護保険事業のための財源確保が難しくなることは容易に想定できます。
システムを変える時は悪くなる可能性は最小限に抑えなければなりません。しかし、「大阪都構想」では悪くなる可能性を回避できているとは言い難いです。

山田忠史(京都大学大学院・教授)交通工学・交通計画

新しいものを作り上げるときには,通常,メリットとデメリットの双方が生じえます.大事なものの場合には,それらがそもそも何なのか,それらがどのくらいの可能性で生じるのかを考慮して決めるはずです.その結果として,判断に迷った場合には,大事なものであるがゆえに,デメリットとその可能性を重視するでしょう.

中村寿子(泉州看護専門学校・非常勤講師)生物学、水環境学

水道は、最も公共性が高い地域独占のライフラインであり、住民は選択不可能である。水道事業を規定する法律「水道法」には、「原則として市町村が経営する」と記されていた。公営がすべて良く民営はだめと決めつけるわけではない。過去、大阪市水道局に批判される事象はあった。しかし、市営水道であり、住民公開請求・市議会承認のもとにおける経営という歯止めがかけられていた。
維新市政は、国が進める新自由主義に同調して、技術者や現場を熟知した労働者を大幅に削減し民間委託を進めており、技術力・考察力・対応力の低下が著しい。一例が、2014年に消毒剤濃度不足の水道水を市内の約1/3の地域に配水してしまった事件である。短時間で解決したにせよ、政令都市の大規模水道としては恥ずかしいミスであった。料金誤徴収、情報誤漏洩、工事不正・工事に伴う事故等、チェック不足・危機管理不足は最近もホームページに記載されている。
市が民営化の利点として挙げるのは、「生産性効率性を上げる」「経営の自由度をあげる」「アウトソーシング、契約社員、短期雇用…の活用」「海外への展開」等である。公共性を投げ捨てて利潤を追求するものと言わざるを得ない。
大阪市が無くなると、必然的に大阪市水道局もなくなり、民営化されるか、単価が高い府広域水道への組織吸収される。料金の大幅値上げによる市民生活圧迫は必須であると予測する。民営化礼賛の論理は、保健所の弱体化による公衆衛生危機管理の低下や、教師の削減で子供達へのいきとどいた教育ができないことなど、種々の分野に表れている。
行うべきことは、大阪市廃止ではなく、市が今まで育ててきた経験と実績、市の財産たる組織・施設を着実に継承・発展させ、市民の命と暮らしをささえることであろう。

大矢野修(元龍谷大学・教授)自治体政策論

政令指定都市・大阪市の内部組織である「行政区」と公選の区長・議会をもつ「特別区」を比較して、特別区の優位性を語っても真実は見えてこない。特別区の実像は、府内の市町村と比較してはじめて分かる。人口60万~70万を擁しながら、財源・仕事上の権限は一般市町村以下。水道料金一つととっても大阪府・府議会に依存しなければならない特別区のどこがニア・イズ・ベターなのか。いったん廃止されれば後戻りのきかない制度を「なぜ、いま」決めなければならないのでしょうか。

福田健太郎(近畿大学・教授)法律学

政令指定都市というのは、様々な分野で都道府県並みの権限をもつ、自主・自立の度合いが最も高い自治体です。大阪都構想というのはその政令指定都市である大阪市を廃止して、権限を制約された4つの特別区に分割するというものです。大阪市がもっている権限・財源の多くは大阪府に移譲されます。大阪市が廃止されるわけですから、たとえば、政令指定都市という保護枠組みの中で大阪市が維持してきたまちづくりの力が大きく損なわれることになりますし、大阪市民が受けられていた行政サービスもこれまでのようには受けられなくなります。

伊藤大一(大阪経済大学・准教授)社会政策論

政令指定都市を自ら返上し、大阪市を解体するメリットを何一つ見いだせません。

栗本裕見(大阪市立大学・特別研究員)政治学

前回の住民投票時には、市による説明会に参加して所見を記しましたが、今回は説明会すらも不十分であり、投票に至るプロセスについてはむしろ「後退」だといえるでしょう。今回の「都構想」でも、「権限縮小自治体をつくる自治体分割」と「合区によるこれまでの域内分権の減殺」を同時に実施することによる弊害は、克服されてはいません。「日本社会全体が直面する人口減少と高齢化、経済の脆弱さ、さらには社会問題もまた集積する都市という空間の中で、住民にも行政にも複雑な判断が求められる」(前回所見)状況がいっそう進展している中で、制度いじりのゲームは不毛ですし、もう打ち止めにするべきだと考えます。

紙野健二(名古屋大学名誉教授)行政法

行政法前回敗北した都構想、今回の内容やその手続に、さらに再度出してくる
ことにも合理的な理由は全くありません。大阪市の皆さん、甘言に乗せられ、日々享受しているサービスの低下を許してはなりません。どうか冷静にお考えいただきたいと思います。

石上浩美(奈良佐保短期大学・准教授)教育心理学・音楽心理学

大阪の教育のスローガンのひとつに,「ともに学び,ともに育つ」というものがあります。それを基に,これまで大阪独自の「学校文化・地域文化」が醸成されてきました。ちょうど5年前に劇場公開されていた映画「みんなの学校」に象徴されるような土壌が,そもそも大阪市立学校園・地域独自の文化的価値でした。大阪都構想は,これらの文化的価値を根幹から破壊し,再生不可能なものとするものです。すでにこの10年あまり,大阪市立学校園は,「大阪市職員基本条例」,「大阪市教育基本条例」,「大阪府教育行政基本条例」など独自法令による効率主義・競争原理主義による教育市政が推進されています。教職員を対象とした「評価・育成システム」によって,いわゆる「教員の働き方改革」とは真逆の「働きにくさ」が,大阪市立学校園にはすでに存在しています。それは,大阪府・市公務員・教員採用試験の志願者数が激減していることからも明らかなことです。このような教育市政によって,教職員はますます疲弊し,教員間同僚性による相互支援もが希薄化し学校運営そのものが成り立たない状況が生まれています。そのしわ寄せは,園児・児童・生徒と保護者,地域に向かってまいります。大人や地域が疲弊すると,子どもの学習権・生存権そのものが大きく揺らいでしまいます。それは,この10年あまりの誤った教育市政に起因すると言っても過言ではないでしょう。教育は,効率主義・競争原理主義だけで語られるものではありません。人を育てるためには,時間とコストもかかります。何よりも,目の前にいる子どもに対する大人社会からの教育的愛情が必要です。維新の会や市政広報から示される情報の大多数はマスコミから流布されています。しかし,そのいくつかには,明らかな瑕疵(特に統計データ)やダブルバーレル,基準操作や印象操作があります。
その一例が,新型コロナ感染症(COVID-19)大阪モデルの基準値操作です。これは,実証化学研究ではあり得ない行為であり,評価の信頼性そのものを損なうものです。このようなデータ・基準操作による信頼性が担保されていない情報をあたかも真であるかのように捉えてしまうことは極めて危険です。これらをひとつひとつの中身を吟味し,議論し,明らかな瑕疵は修正され,誰でもわかるように丁寧に説明する必要があります。それが大阪市立学校園をフィールドとするいち教育心理学研究者として保育士・教員養成に携わることを生業としている筆者に今課せられでいる社会的な役割だと認識しております。

宮本憲一(元滋賀大学学長・大阪市立大学名誉教授)財政学・都市経済学

大阪市が大阪都になるのではない。大阪市はなくなる。そして市民ではなく、北区とか中央区という名称の特別区民になる。大阪府は法律改正をしなければ都にならない。仮に大阪府が大阪都になっても府県制を超えるような機能を付与されるのではない。大阪都になれば政府が第二首都として、中央官庁の移転、例えば、経産省や国土交通省などを移転するということではない。府が都に代わっても、国税の一部が特別に大阪に配分されるのでもない。カジノ観光でも大阪都にならぬとできぬのでなく、政府は大阪市でも認めるというのである。このカジノ構想は「下司の街」と批判されてきた大阪の都市格をさらに落としてしまうであろう。
大阪都構想はコップの中の争いで、大阪市と大阪府の権限・財源の配分で、国の権限や財源などが委譲されるということではない。また大阪都になれば、80年代以降急激に東京に移転した大阪資本の本社が復帰してくるというのでもない。また他地域から企業が流入してくるということでもない。この企業の流れは行政区画の問題と異なる。大阪都構想によって東京一極集中が是正され、大阪経済が東京経済と同じような機能を持つようになるということはない。
大阪市民は大阪市がなくなり、どこにあるかわからないような北区民、中央区民となってよいのであろうか。大阪市は京都市や神戸市と並んで、関西地区経済の母都市であり、文化の中心であった。これは東京圏のように東京23区一極集中とは違って、最も望ましい3種3様な多様な特色を持った大都市圏の姿であった。その大阪市がなくなれば、関西の特色がなくなるだけでなく、日本の誇る多様な都市連帯の大都市圏がなくなるのである。知事は大阪都が新しい大都市制度というが、これは都市自治体論なき空論である。広域行政体で、市民生活の現場の行政の経験のない大阪府が名前は大阪都になっても都市ではない。大阪地域は京都市や神戸市に比べて都市力や都市格ははるかに低いものになるであろう。
歴史的に形成されてきた大阪市を二度と再生できなくなるような住民投票にかけるのは歴史を否定する暴力である。市民には、大阪市を廃止することはニューヨーク市やロンドン市をなくすような国際的な屈辱的事件であるということをぜひわかってもらいたい。

木下秀雄(龍谷大学・教授)社会保障法

大阪市で生まれ育ったものとして大阪市解体に大いに疑義を感じます。
それだけでなく、社会福祉水準切り下げや、カジノ誘致で大阪を一層荒廃させることになる『都』構想には極めて深刻な疑義を表明します。

朴一(大阪市立大学・教授)国際経済学

大阪市には、現在143カ国、14万を超える外国籍住民が居住している。橋下徹氏が大阪市長になる前までは、大阪市には外国籍住民有識者会議が設置され、外国籍住民の声を市政に反映しようとする動きがみられたが、橋下徹氏が市長になってから、外国籍住民有識者会議は廃止されてしまった。今回の大阪市の廃止、特別区への再編をめぐる住民投票でも、外国籍住民は排除される可能性がつよい。大阪市でも、今後、少子高齢化が進むなかで、外国人にも魅力的な街づくりを進めていくうえで、日本籍住民だけでなく、外国籍住民の声も反映する市政改革が必要だと思われる。大阪市の解体、特別区への再編をめぐる住民投票にも条件を満たした外国籍住民を参加させることが必要であると共に、現在の大阪都構想の中に外国籍住民の声を反映させる仕組みが全く見られない点を指摘できる。外国籍住民を排除した大阪都構想に、大阪の未来はない。

森裕之(立命館大学・教授)地方財政学

大阪市の廃止・解体・特別区化によって、大都市自治体にとって不可欠な都市計画等の行政権限と財源が大阪府に吸収される。大阪市民の税金の4分の3が大阪府税に変わり、国から市へ配分されている地方交付税交付金も大阪府が吸収する。それらを最終的に特別区へどれだけ再配分するかは大阪府が毎年度決める。大阪府内の人口のうち大阪市には3割しか居住しておらず、特別区は将来たえず財政削減の圧力を受ける。その影響は特別区が担う福祉や教育の削減となってあらわれる。特別区間の財政配分をめぐる区民同士の争いも延々と続く。大阪市民にとってのメリットは全く見いだせず、こんな不安定な財政制度は決して取り入れるべきではない。
大阪府市は特別区になった場合の財政シミュレーションを示しているが、二重行政の解消による財源効果はゼロに等しい。その一方で「大阪都構想」によって初期費用240億円、ランニング費用30億円/年が必要となる。誰がみてもマイナスでしかない。
特別区でつくる一部事務組合で国民健康保険や介護保険など120もの事業を担わざるをえないことは、大阪市解体がいかに無茶な制度改革かを示す証左である。その事業費は2500億円にのぼり、特別区の財政圧迫の最大要因になりかねず、中身を変える実質的な審議もできない。さらに新しく現24行政区つくられる地域自治区が加わり、大阪の地方自治制度は類をみない複雑極まりないものになる。財政的・行政的に何ら肯定できる要素はない。

三橋伸夫(宇都宮大学・名誉教授)建築学

大阪市の廃止と特別区の設置という大阪維新の会が提案する「大阪都構想」は、広域的な都市計画の推進という面でメリットが生じるかもしれないが、新たな行財政システムの下では大阪市域の教育や福祉など市民生活に直結する施策の質の低下という大きなディメリットが生じる恐れが強い。さらに、大阪都への移行により予想される万博や都市開発事業へのいっそうの傾斜は、大阪市が築き上げてきた市民生活の安定を踏みにじることになるであろう。大阪市を廃止し大阪都へ移行しようとする再度の住民投票は、自治体の命運を政争の道具として弄ぶ危険な政治的賭けであり暴挙に他ならない。

田中浩介(東京理科大学・助教)国土・地域計画

阪市を廃止し特別区を設置するということは、今の大阪市民は、自分の住んでいるまちの未来を他人に委ねてしまうということである。まちは、第一にそこに住む市民のためにあるのであって、その未来は住民自らで決めるのが、他の自治体も含めて当たり前の権限である。各地域では住民自らの手でその権限を行使し、そのまち固有の歴史や文化、産業を守り、誇りと責任を持ってそれぞれに個性あるまちを育ててきた。きちんと検証すれば存在するかも怪しいメリットのために、そんな当たり前の自由を放棄してしまう都構想は、市民は断じて拒否すべきと考える。

新田保次(大阪大学・名誉教授)交通計画・地域計画

大阪都構想とは、大阪市を亡くす「大阪“苦”構想」と言い得るものです。連綿と積み重ねられてきた、上方文化、大阪文化を否定するものです。私の専門の交通計画の立場からみても、危惧するところが多いです。例えば、現在、高齢者・障害者等の移動困難者のためのバリアフリー整備が駅などの旅客施設を中心に進んでいますが、大阪市が4区に分割されると、駅周辺が複数の区にまたがるため、一体的な整備が進まなくなります。市民の移動を不便にする「大阪“苦”構想」に重大な疑義を表明します。

西堀喜久夫(愛知大学・名誉教授)地方財政学

大阪市廃止を問う住民投票が迫ってきていますが、この住民投票の成否は日本の地方自治に大きな分岐点となるように思います。情報と行政の中央集権化がすすめられつつあるだけに、大阪市民が真実を知り、良識を発揮してくれることを願います。
いったん否決された廃止案が自分たちの都合で再び投票にかけること自体、民主主義倫理の欠如を示しています。
何よりも、コロナ禍によってカジノと万博による インバウンドで大阪経済を浮上させるということがいかにリスキーかということも明らかになりました。

喜多善史(大阪大学大学院・元助手)大気環境学

大阪市民の健康を守るため、大気汚染状況の常時監視測定は現在大阪市域26箇所の大阪市管轄局において継続され、PM2.5、NO2など約10種類の大気汚染物質のデータが時々刻々蓄積されて、大阪市の大気環境保全施策の制定・点検等にとって貴重なデータとして用いられている。測定機器の保守点検・データ整理などを含め測定体制の維持・充実のためには、専門職員を適切に確保し、大阪市全域を管轄する環境局を存続・強化することが不可欠である。大阪市を特別区に分割することは上記の施策の継続と逆行し、到底認めることができない。

住友陽文(大阪府立大学・教授)歴史学

大阪市民の民意から出てきたわけではない大阪市廃止+特別区設置構想を、維新勢力は「大阪都構想」と言い換え、あたかもバラ色の大阪市の将来が保証されているかのように主張していたにもかかわらず、2015年の住民投票では否決された。その構想は、政令指定都市を廃止して特別区に解体し、政令市が持っている権限も税財源も奪ってしまおうという構想だ。大阪市民は賢明にも、住民投票において直接、そして明確に、「大阪市廃止はお断り」と断言したのだ。にもかかわらず2020年の今年、前年のW選挙で民意を得たとばかりに、維新勢力は再度同じ構想を住民投票にかけてきた。もし大阪市が廃止されれば、日本史上初めて政令市が特別区に格下げとなる。特別区は東京都にしかないもので、総力戦体制下の1943年(昭和18)に、それまでの東京市の自治権限を強化する運動を押さえつけて、帝都防衛のための体制づくりに利用すべく作られた体制奉仕の団体が、この特別区であった。全国どこにも特別区をめざす地域はなく、当の東京都内の特別区長でさえ、特別区は古い歴史的産物で、終焉を迎えるべきシロモノと呼んでいるものだ。大阪府と大阪市の異なる党派性がもたらす開発の主導権争いが、大阪市の廃止によって解消されたからといって、今度は大阪市域に設けられる4つの特別区の首長が選挙で選ばれるため、ここが党派性を帯びるようになり、大阪府と特別区の争いや、特別区間の対立・不調和が問題になることを心配しなければならなくなる。2度と復元できない大阪市廃止という非常に大きなリスクを払って敢行するものではない。大阪市民には再び賢明な判断をお願いしたい。

藤井えりの(岐阜協立大学・准教授)地方財政学

大阪都構想が実現すれば、住民のくらしに直結する多くの事業の運営が一部事務組合に移行されることとなりますが、介護保険事業もそのひとつです。これまで、大阪市は独自事業として財源を充当することで介護保険事業を運営してきました。しかし、一部事務組合によって運営されることになれば、保険料抑制のみならず、住民ニーズに即した介護予防などの事業を行うことが難しくなり、地域福祉が住民ニーズ乖離していく可能性が懸念されます。

佐野寛(地球エネルギーシステム研究所・所長)地球環境化学、国際語学

大阪都構想には、一般の方が十分に認識出来ていない下記のような大きなリスクが潜んでいると考えます。
IRという名を借りたカジノという、一般には「賭博」と呼ばれるようなものに財源を求めるような健全とは言い難い疑義が濃厚な思想を持っていると想定される政党が推進役であることの意味が、十分に有権者に知られていない。
そもそも「一度否決された」都構想を再度住民投票にかけるることが、健全な民主主義の理念から大きく乖離しているという点についての認識もまた、有権者に十分認識されていない。
こうした点を踏まえた上で理性的投票判断が必要であると考えます。なお、上記の問題に比べれば「都か市か」の差異はさして重要でないとも言えるのではないかと考えています。

中村真悟(立命館大学・准教授)技術論

大阪都構想の提案は、その効果に疑義が示されているにも関わらず、根本的な内容の見直しもなされないまま、再度の住民投票がなされようとしています。とりわけ財政予測もコロナの影響で大幅に変更する必要があるにも関わらず、全くと言ってよいほど考慮に入れていないのは大変問題があると思います。加えて、コロナ対策という最重要課題があるにも関わらず、不要不急の都構想に予算、人員、時間を割くという行動は理解し難いことです。なぜ今、都構想なのでしょうか?今でなければなぜいけないのでしょうか?行政構造の見直しは、地域住民の生活の持続性に直結する問題です。

村上 博(広島修道大学・名誉教授)行政法学

大阪都構想は、経済成長という目的のために、大阪市民の政府である大阪市を解体して、市民のいのちと暮らしのための税金を成長戦略のために使うものであり、憲法の保障する住民自治と団体自治を侵害するものである。

北山俊哉(関西学院大学・教授)行政学・地方自治論

大阪都構想は、大阪市を複雑骨折させて4つにバラバラにし、市が徴収していた固定資産税、法人住民税等を大阪府に差し出して、都市計画を任せしてしまうものです。23区が都の7割を占める東京と違い、大阪市は府の3割しかなく、都市計画がうまく進むとは思えません。特別区は資金繰りに苦しみ、他の特別区、一部事務組合、府との調整が難航すること必至です。特別区議会の議員定数も少なすぎます。そもそも二つあるものがダブるからと言って、一つをなくしてしまおうというのは、乱暴に過ぎる議論です。愛知県と名古屋市の意見が合わないので、名古屋市をなくしてしまおうとは、愛知の人は考えません。
また行政学で明らかになりつつあるのは、行政の重複や無駄を極限まで縮小化していた時に、危機が襲った場合、対応能力が著しく低下することです。このことが新型コロナウィルス危機によって明らかになりました。このような重複や無駄は「冗長性」と呼ばれ、逆に、過誤の発生を抑制し、システム全体の信頼性を高めると言われています。

神谷章生(札幌学院大学・教授)政治学

大阪都構想は、万博のノスタルジーで東京が羨ましいという意識を染み込ませた人々の俗情に根ざしたものに他ならない。
大阪府と大阪市が二重にコンサートホール持ったり、二重に病院持ったりして大都市に相応しい文化や医療が提供される。それがどんどんつぶされている。今でも大都市にふさわしい文化施設も医療施設も足りない。さらにいうと国立もあるから三重行政でも大阪にはモノがないくらいだ。これで文化都市大阪といえるのか。
ニューヨーク州立大とニューヨーク市立大、二つあって誰が二重行政っていうのか。1+1<2になるのがこの手の世界。政令市潰して村以下の特別区作って、大阪は底冷えする他無い。

浜崎洋介(日本大学・非常勤講師)文芸批評家

調べれば誰でも分かることだが、政令指定都市「大阪市」から、その財源と権限—つまり、その自治権を奪おうとする「大阪都構想」は、大阪市民にとって、いや、日本国民にとって百害あって一利なしである。「大阪都」などというマジックワードに騙されてはならない。行政的に考えれば、決して東京都が上手くいっているわけではないこと(東京の成長は、交通インフラの整備と、それによる東京一極集中のお陰である)、また、この法案が通っても、大阪が「都」にならないという事実も含め、今こそ、自分たちの将来を見据えた冷静な判断が必要なときである。

菅原敏夫(法政大学大学院・兼任講師)地方財政学

東京都は条例で「都民の日」が定めています(1952年制定)。10月1日。これはなんの日かというと、1898年10月1日、東京市が官選市長から離れ、「市」として独立した日を記念しています。
都民は戦後反省した。戦時中とはいえ、東京市をなくしてしまったのは間違いだったと。東京市は自治の原点でした。その中で、より小さな自治を「区」として育んで行くべきだった。この順序は逆にできない。未だに完成しない23区の自治。「都」制がじゃまになって、区の自立を妨げている。特に深刻なのはお金。半数以上の区の歳入トップは、自前の財源でなく、都からの交付金です。特別区の自治も自立も絵に描いた餅です。
自治の真のゆりかご「市」を潰してはなりません。

中尾聡史(京都大学大学院・助教)都市計画

特別区設置による経済効果が、大阪都構想によるメリットの一つとして挙げられているが、その効果額は誤った前提に基づいて推計されたものであり、これを経済効果として認めることは出来ない。「大阪市の廃止」という地方自治の一大事にも関わらず、こうした信憑性のない情報をもとに市民への説明がなされている点は、決して容認できるものではない。

関 耕平(島根大学法・准教授)財政学・地方財政論

日本社会で蔓延しつつある、自治と自主を掘り崩す動きに強い危機感を覚えています。大阪市における住民自治を崩し、住民から行政を遠ざける大阪都構想には強く懸念を抱かざるをえません。

熊谷貞俊(大阪大学・名誉教授)工学

府市2重行政の弊害なるものの実態が不明である。もし従来行政措置上の無駄や、支障があったとすれば、突出した政令指定都市である大阪市の広範な自治権に大阪府が容喙することが考えられる。我が国の基礎自治体は市がその単位となるべき。都道府県は広域行政単位としては中途半端であり、将来的には道州制(その場合関西州はほぼカナダ1国のGDPに相当)で、自律分散社会を目指すべき。無くすべきは、大阪府であり、御堂筋や地下鉄、大阪港湾を構築整備した大阪市ではない!

西脇邦雄(大阪経済法科大学・教授)政治学

府市共同の取り組みや、予算権限を持つ区長制度を、一市民として支持している。
ただし、大阪市廃止という都市の分割は、規模の経済の観点からコスト増は避けられない。橋下市長(当時)は、2012年2月地方制度調査会の場で、「大阪都構想は、基本的には国の財源には影響を与えません。今、大阪府、大阪市がいただいている交付税、税収の範囲で財源を再配置する話です。」と述べている。国に財源保障を求めず、母都市の機能がなくなれば、制度中立の改革ではなく後退の懸念すらある。
また、2025年1月に都構想、4月に万博を開催の二兎は追えない。都構想のイニシャルコストが241億円、ランニングで毎年30億円。10年で1350億円の試算もされる。
バーチャル都構想の充実と、総合区による都市内分権からの再出発を願う。

山本幸男(大阪産業大学・名誉教授)理工学

由緒ある大阪市を失くすことにメリットはなく、自治と財政能力を失うものです。都は東京だけで十分である。

二宮厚美(神戸大学・名誉教授)経済学

そもそも大阪都構想は、カジノ誘致と同様に、橋下徹氏が思いつきででっちあげた大阪市解体のスローガンにすぎません。大阪を関西の州都にしようという関西州(関西版道州制)構想の妄想が破綻した後、つじつま合わせのあげくに、行き着いたのが大阪都構想でした。その根拠に持ち出された「府・市間の二重行政の解消」論も、大阪市の資産や財源をぶったくるための「最後の残り物」的な口実にすぎず、大阪市の将来のために考えられた真面目な案ではありません。だからこそ、松井市長は「こんなことは二度とやりたくない」と言っているのです。心の底から、真剣に大阪のことを考えているのであれば、二度とやりたくないなどとは言えないはずです。

中林 浩(神戸松蔭女子学院大学・教授)都市計画学

大阪市では戦前の関一市長の為政はじめ、先駆的な施策の伝統をもっている。新憲法下でも市長と市議会の選挙をくり返し、市民の願いを積みあげてきた歴史がある。都市計画の分野で考えると、大阪市域では乱開発も進んだとはいえ、なお魅力ある場所が多いのは市民の自治の力による。大阪市廃止構想は二重行政が問題だというが、多重のしくみのなかで多様な議論をするから町がよくなるのだ。一度作りだしたものを大切にする修復型のまちづくりが求められているときに、構想はムダな大規模開発やカジノ建設を断行しようとするためのものだ。人口70万人ほどの自治力の弱い区を4つ置くことになると、住民の声が届きにくい行政となるのは明白だ。

釈 徹宗(相愛大学教授・副学長)宗教学

いわゆる都構想であるが、やはりその必然性は低いと言わざるを得ない。常に取沙汰されるのは「二重行政解消」である。「現在、どんな解消すべき二重行政があるのですか」と問うと、「今は知事と市長が仲良しだから問題ない。ただ、府市の足並みが揃わない場合もあるので、統一システムにする」と言う。しかし、他府県と比較しても、府市を統一しなければ実行できない案件はあまり見受けられない。「大阪の特殊事情だ」との主張もあるが、その特殊事情を是正していくのが本来の手順であろう。多額のコストをかけてすべきものなのか、はなはだ疑問である。また、現在の愛知県と名古屋市の関係を見るにつけ、「県と市とが同じ意見に統一された場合の危険性」さえ感じる。むしろ一方が偏向した際のカウンター役として、広域自治体と基礎自治体の健全でオープンな緊張関係が大切なのではないか。

川瀬光義(京都府立大学・教授)財政学

 1925年、大阪市は面積を3倍に拡大する市域拡張を行いました。対象となった地域には、大量の農地が含まれていました。都市化した地域の編入しか認めないという当時の政府方針を打ち破ったこの施策には、大都市化の時代を見通し、「住み心地良き都市」という理想をめざす、関一(せきはじめ)市長のこだわりがありました。このとき形成された大阪市域は、現在のそれとほぼ一致しています。100年近くにわたり営々と築かれてきた大阪市の財産を解体することに、どのような意味があるのか、大阪市民の皆さんがよく吟味され、賢明な判断をされることを切に期待します。

広原盛明(京都府立大学・元学長)都市計画

大阪府市政は高度成長期以降半世紀近くにわたって環境破壊の開発競争を繰り広げてきた。白砂青松の浜寺海岸の埋め立てに始まる大規模な大阪湾埋め立て事業、水の都の景観を破壊する高速道路建設網の建設、思いつきテーマパークや巨大タワービルの乱造など枚挙の暇もない。そして今、あまつさえコロナ危機で実現不可能になったカジノリゾート建設に巨額の税金を注ぎ込もうとしている。大阪都構想は巨大プロジェクト建設のための資金を生み出す手段であって、二重行政の無駄を省くとの口上は単なる宣伝文句にすぎない。いま大阪に必要なのは分権型のまちづくりであり、大阪都(府)に一元化された巨大プロジェクト中心主義の集権型都市計画ではない。大阪市24行政区に都市計画権限を委譲し、市民の生活空間を住民主体のまちづくりで充実させることこそが、大阪の「都市の品格=都市格」を取り戻す道である。

亀岡照子(大阪健康福祉短期大学・非常勤講師)公衆衛生学

 今回の新型コロナウイルスの感染拡大予防に力を発揮する、24区すべての区にあった保健所をたった1か所にし、維新府・市政は研究所を統廃合・独立行政法人化したため、PCR検査を迅速に行うことが出来ていません。いのちと健康を衛る“砦”の保健所を24区に取り戻し、新型コロナウイルスから市民を守ることが必要です。

早川和男(神戸大学・名誉教授)環境都市計画

「都構想」は市民社会の基盤を弱体化させる。自治は制限され、安全、医療、福祉、生活環境の水準は低下し、公営住宅入居も一層困難になろう。政令指定都市である大阪市の廃止は、市民の暮らしを損なうことになる。(2015年5月9日寄稿、再掲載意思確認稿)

中島岳志(東京工業大学・教授)政治学

名古屋市を廃止し、名古屋という歴史的な都市名・区分をなくして、特別区にする」という提案に、どれだけの名古屋市民が賛成するでしょうか? 大阪都構想は「大阪府」と「大阪市」の名称の同一性によって、見えなくなっているものが多くあります。移行にかかるコストは膨大で、財政効果は殆ど期待できません。大阪市民への行政サービスが低下するだけです。いま都構想を阻止しておかなければ、取り返しの付かない後悔をすることになります。私の大切な故郷・大阪が瓦解していく様子を座視するわけにはいきません。

池内了(名古屋大学・名誉教授)宇宙物理学

日本は明治以来、中央集権が徹底し、人々の自治権が制限され、本来の民主主義が実現できていないと思います。人々の居住地域を中心とした地方自治を足場にして、地産地消の社会にしてゆく必要があります。都構想はそれとは真逆の集権化の推進であり、住民自治に基づく民主的社会がますます遠ざかってしまうでしょう。

加美嘉史(佛教大学・教授)社会福祉学

大阪市は日本で最も貧困が深刻な都市である。とくにコロナ禍において、多くの住民の暮らしは苦境に陥り、先の見通しも立たない状態になっている。そうした中で、不要不急の大阪市廃止・分割を行う「大阪都構想」など進めるべきではない。むしろ、大阪市の長年にわたる生活困窮者に対する施策を改善・発展させ、いまの大阪市の住民の暮らしを最大限守ることが行政の責務である。

浅沼信治(日本農村医学研究所・研究員)農学

これからの日本は健全な都市と農村のあり方を軸にすえた地域づくりが必要である。
その場合には何よりも住民の命と健康を大切にする自治体のあり方が問われることになる。大阪市を廃止して大規模開発を推し進めようとする「大阪都構想」にはそのような理念がみられず、カジノ誘致などによって住民の健康がかえって失われていく懸念が強い。いまの大阪市の資源をむしろ医療や福祉へ大きく転換する取り組みこそが必要である。

青山政利(近畿大学・元准教授)環境学・エネルギー学

きめ細やかな施策で地域住民の暮らしに寄り添い、地域の環境を守るためには自治体の規模は小さい方がいいと私は考えています。大阪市を解体し五つの特別区を設置するという「都構想」なるものは私の考えとは相反します。併せて二重行政の改善と称して、両校の伝統と役割を全く無視して強行しようとしている、大阪府立大学と大阪市立大学の合併にも重大な懸念を抱きます。

池上洋通(千葉大学・元非常勤講師)地方自治論

もともと東京都の特別区制は1943年に戦時的動員統制体制として法制化されたもので、憲法の「法の下の平等」原則に反する疑いがあり、現に「特別区長会」が繰り返し「特別区廃止」を提唱してきた。また現実にも、多摩地域(30市町村)、島嶼各町村との間に無視できない格差が生じていて、特別区間の格差もまた深刻である。現在のコロナ禍で、東京都23区が飛びぬけて感染率が高いことは明白であり、制度そのものを再検討すべき事態である。こうした現実の下で、なぜ大阪市を廃止して「都」になりたいのか、全く理解できない。

西谷敏(大阪市立大学・名誉教授)労働法

都構想は極めて重大な危険性を持つ構想と考えます。二重行政解消=行政効率化の名のもとに住民サービスを低下させ、地方自治を形骸化させるおそれが強いと考えるからです。行政はなによりも住民に密着したものでなければなりません。大阪府立大学と大阪市立大学の統合は、都構想の先行形態ともいえるものですが、両大学それぞれの歴史と伝統を破壊し、理念のないマンモス大学を生み出すだけのように思います。できれば元に戻してほしいのですが、それが無理でも、せめて新たな都構想の実現だけは阻止したいと思います。

入江容子(愛知大学・教授)地方自治

大阪都構想の最大の狙いは、「大阪府と大阪市では広域行政の司令塔を大阪府に一本化」 することにあると考えられる。これは人口269万人を擁する大都市・大阪市を廃止し、その有する権限を知事に吸い上げ、新しい集権的体制を構築しようとするものである。あえて自治権の制約された特別区として大阪市を分割・廃止し、権限を集約して強い一人のリーダーを置くという考えは非常に集権的理論であり、地方分権の流れに逆行する。
 憲法及び地方自治法では、首長に強大な権限が集中しすぎることがないよう、二元代表制や執行機関の多元主義が採用されていることからすれば、この大阪都構想は、大都市行政を運営するための組織体制としての適格性という点で大いに疑問と危険性を感じる。

藤永真史(元東京大学大学院 非常勤講師)農学

今は遠く離れてはいるが、「大阪市は我が故郷である」。
大阪市で生まれ、大阪市で育ち、大阪市で学んできた。
私が学生の頃、身近なところに、保健所や環境科学研究所があって、水・空気・土壌・ごみ処理や食品の安全も守られていた。
私が「市民のための研究がしたい!」と、研究者の道に進んだ動機は、その頃、扇町にあった研究所の職員の姿を見てきたからだ。また、大阪人の笑いのセンスは市民の財産だが、それは、大阪の文化の歴史が培ってきたものだ。
その大阪市を、廃止・解体するとは、いったいどんな大きな目的や価値があるのか調べてみた。
現時点で、私の求める理由は一向に見当たらない。
すべて、現行の大阪市でできることばかりだ。
130年余の歴史を有する大阪市を、廃止し特別区にする「設置法案」などは、拙速に決めることではない。
かけがえのない故郷を潰さないでほしい。

河野 仁(兵庫県立大学・名誉教授)大気環境学・気象学

都市は生き物である。都市構造の変化に対応して、環境行政の課題も変化してきた。しかし、都市と環境行政は表裏一体の関係にある。大都市としてまとまりのある環境行政を進めるためには、政令指定都市である大阪市という行政単位が必要であり、4つに分割された特別区では対応しきれない。大阪市域の環境対策に関しては、大阪府からの規制権限移譲を受けて、大阪市が行ってきた(いわゆる二重行政はない)。また、大阪市は環境分野の専門技術者を育ててきた。大阪市立環境科学研究所もその一つである。これ等の専門家集団は都市環境を守るために大きな役割を果たしている。大阪市の解体は、この専門家集団の解体につながる。いったん解体すると専門家集団の再育成には数十年の年月を要する。

高山 新(大阪教育大学・教授)財政学

大阪市は長い時間の中で、多様な空間を混在させながら経済や文化を育くみ、地域の力を培ってきました。そして昼間には、府民を中心に100万人を超える流入人口をも受け入れているのです。しかし都構想によって、権限も財源も小さくして4つに分解することはこの力を大きくそぐことになるのではないかと危惧されます。府内43市町村を対象とする広域自治体である大阪府に大阪市の変わりはできません。

保母武彦(島根大学・名誉教授)財政学・地方財政学

 「大阪都構想」は、「広域行政の効率の向上」などを目的として大阪市を解体し、現在の24行政区を4特別区に再偏しようとしています。そうなれば、住民の声は行政に届きにくくなり、「住みづらさ」が蔓延する失望の都市に変わってしまうでしょう。その苦い経験をしたのが、農村など地方で行われた「平成の大合併」です。「広域行政の効率の向上」という甘い言葉に乗せられて合併した市町村では、役所は遠い存在となり、住民の声は行政に届きにくくなってしまいました。大都市と地方という違いはあるが、行政と住民との関係では同じです。いま大阪市で必要なことは、住民と行政をつなぐパイプを強く、太くして、住民の声が届く行政の仕組みをつくることです。

和泉かよ子(大阪体育大学・非常勤講師)スポーツメディア論

『市民の理解を阻害する大阪市の広報姿勢』 大阪都構想は「大都市地域における特別区の設置に関する法律」(大都市法)の第7条第2項で、「関係市町村の長は、投票に際し、選挙人の理解を促進するよう、特別区設置協定書の内容について分かりやすい説明をしなければならない」と規定されている。ところが、大阪市の市民向け情報発信はバラ色の展望ばかりで、大阪都構想の真実を伝えていない。大阪市が4特別区に分割されることで行政運営経費(基準財政需要額)は増大するのに、国の地方交付税は増額されず、特別区は慢性的な税収不足に陥るという致命的な欠陥すら広報されない。この広報姿勢は市民理解の促進どころか、市民理解を阻害している。住民投票は、政令市から特別区への格下げを大阪市民に対し「本当にいいんですか?」と確認するためにある。現状では住民投票で賛成多数になったとしても、大都市法に違反して導いた結果でしかない。

大槻眞一(阪南大学・名誉教授、元学長)科学論

コロナウイルスは、現代社会に多くの課題を迫っています。医療や検査体制の拡充強化の必要性はその最たるものでしょう。しかし、維新政治は、“二重行政の解消”を叫びながら、住吉市民病院の廃止を強行しました。市民の安全を切り捨てる都構想は許せません。

野田哲朗(兵庫教育大学・教授)精神医学

大阪府地図のセンターにどーんと腰を据えているのが政令指定都市、大阪市です。政令指定都市は、府と同等の権限があり、財源も豊かで、府に忖度せずに地方自治を行います。ですから府にとって、目の上(中?)のたんこぶなんでしょう。地図からたんこぶの切除を図ろうとしているのが大阪都構想です。
ャッチコピーとして乱用される「二重行政の無駄」ですが、無駄ってなんでしょう。例えば、保健所は無駄とされ、人員と機能の削減が強いられてきました。でも、新型コロナウイルスパンデミックと、今、最前線で必死に対峙してくれています。住民の命と安全を守るために。無駄どころか、とっても素敵な人達です。
「無駄を無くせ」は、「素敵を無くせ」に繋がりませんか。
住民投票がされますが、私には疑問があります。大阪市民の5%を超えると言われる在日外国人に投票権が無いことです。国籍に関係なく住民一人一人の意志を大切に問うべきです。

大江洋一(大阪市立大学・元特任教授)刑事法

制度は気まぐれで変えるものではありません。真に支障が出ているところを手直しし、どうしても制度自体を変えなければならない実情があって初めて、石橋を叩きつつ進めるものです。病院を廃止して浮いた金でカジノをと作るような安易な発想は再考すべきです。

佐々木邦明(早稲田大学・教授)都市計画・交通工学

大阪を中心とした関西圏の発展は,日本の発展につながる重要なことと考えています.しかし,大阪市を廃止して特別区に分割することがそれに貢献するのでしょうか.特別区制度を持つ東京都は「生産性の向上」による経済成長率は必ずしも高くなく,外的攪乱に弱い都市です.災害の多発するこの時代において,大阪が選ばれる都市になるためには,災害に
強く西日本の核となる都市づくりを,長期的視点で進めることが大切です.それを進める強力な主体が失われることは,関西圏だけでなく,日本にとって大きなリスクになりえます.

柴谷宗叔(園田学園女子大学・公開講座講師、高野山大学・研究員)密教学・民俗学

大阪市という政令指定都市を解体して、特別区という村以下の権限しかない不完全な自治体にしてしまうことのデメリットを十分に広報せず、一度は住民投票で否決された「都」になることがない「都構想」なる政策を推し進めることに不安を感じます。横浜市や名古屋市が無くなるとなればおそらく反対の方が多いでしょう。大阪はたまたま府県名と市名が一致しているので、無くなると考えない、よくわかっていない方が多い。二重行政の解消どころか一部事務組合のような三重行政になるということも周知していない。市民病院の廃止や、保健所の統合により新型コロナへの対応が十分にできなくなったこともよく知られていない。効率化の名のもと、儲からない文化行政は縮小する一方です。地域文化を破壊する「都構想」に深刻な疑義の念を表明します。

白井浩子(元大学教員)生物学

大阪都構想は、本質は、大阪市廃止構想、だと思います。
市を廃止して何をするか、は外部からみると、カジノ依存ですね。カジノは一部の大金持ちの架空の経済活動で、そもそも、他人の損害にもとづく狭い、幻想の経済活動です。活動のありようから云ってもいわゆる3密の極みです。推進派も、儲けが見込まれなければ投資しないのであって、 日本へのカジノ資本の上陸は控えられています。
世界的に市民の視野が広がり、 歴史や社会、生態系への学びが進んでいます。 コロナ後の世界の動向として、カジノ依存は大変時代遅れです。 地域で人々がとりどりに、面白く豊かに暮らすことが、生態系も含めて 社会全体の健全な持続の内容です。
大阪は本来、自治精神の旺盛な、とりどりの庶民活動の面白さ、希望溢れる都会だと思います。狭い新自由主義の架空性にどっぷりのカジノ推進派にも、そこから覚め、社会や歴史や生態系への再考を求めます。

上田義朗(流通科学大学・教授)経営学

大阪市以外の大阪府民の立場としては、「都構想」賛成の大阪市民の皆さんに対して感謝を申し上げたいです。自主的な大阪市の財源を大阪府に提供していただけるのですから。
大阪府よりも長い歴史がある大阪市が消滅する。
太閤秀吉、大阪城が泣いている・・・。
いずれにせよ大阪市民の皆さんが判断することです。
よく考えて投票して下さい。

小池淳司(神戸大学・教授)土木計画学,応用経済学

共同体の再編という歴史的事業に際して,熟議・熟考が必要なことはいうまでもない.そして,伝統に育まれた共同体の価値をわたしたちが正確に理解しているということも現代人の驕りであろう.このような大事な意思決定に際し,その決定が将来におよぼす影響や日本社会におよぼす影響には留意せず,ただその時点における状態においてとらえていく今回の住民投票そのものが問題である.

森川亮(近畿大学・准教授)物理学の哲学・思想

大阪都構想は異常事態です。住民自らが、自らの自治体を解体するというのですから、正気の沙汰ではないのです。私は、岐阜市に生まれました。もし岐阜で都構想と同じことを市長や県知事が言い出したら、ほとんどの住民から総スカンをくらうことは必定です。で、市長も県知事も政治家としてお仕舞いでしょう。
ところが、何やらおかしな空気に支配されてしまった大阪では、過激で過剰な改革(という名の打ち壊し)が専売特許になってしまっています。いい加減に目を覚まさないと修復不可能なほど社会が崩壊してしまいます。
都構想の次に来る事態をここに予言的に書いておきましょう。次に、大阪は水道をはじめとした各種の行政サービスを民営化することでしょう(その手始めに、これらの料金をジワジワと上げてゆくことでしょう——それっぽい理屈を付けて…)。さらに、消防や警察といったシステムまでも民営化しようとすることでしょう。今は、「そんなアホな…」と思うかもしれません。しかし、そういう話が持ち上がってきた頃には、なんとなくそれっぽい雰囲気が醸成されて、「そうだよなぁ〜」と思わされてしまい、自分たちで自分たちの町や国を壊す選択をしてしまうのではないか? そんな危惧を抱かざるを得ません。
我々の未来のために、そしてまた、我々の子孫のために、まさしく我々の常識がためされています。大阪に、そして我が日本に、常識と良識が戻ることを願うばかりです。

早川光俊(大阪市立大学・非常勤講師)環境法

これからの都市政策は、環境、防災、福祉が柱です。大阪は南海トラフ地震に直面しており、最悪13万人の死者が想定されています。私は西淀川区に住んでいますが、西淀川区が属するとされる「湾岸区」は、津波の直撃を受けるとされ、深刻な被害がでると言われています。大阪都構想は、大阪市の区割りや大阪府との役割分担において、防災・減災はほとんど考慮されていない都市政策としては欠陥商品です。大阪市は大阪都構想の住民投票に10億円を計上していますが、コロナ禍で疲弊している中小企業の救済にこそ使うべきです。

広川禎秀(大阪市立大学・名誉教授)日本近現代史

大阪市を廃止し、特別区に四分割する住民投票が、11月1日に実施される。コロナ禍で市民の暮らしや営業が脅かされているときに、市民に熟慮の機会を与えず、130年の歴史をもつ大阪市を廃止する住民投票を強行する維新のやり方は、最悪の住民自治と民主主義の否定である。
維新は「大阪の成長を止めるな」をスローガンに掲げ、大阪の経済的地盤沈下を「二重行政」の解消という行政改革で「解決」しようとし、さらにカジノ誘致などインバウンドに依存する経済活性化をめざしてきた。「経済効率」の名のもとに保健所・病院などの人員・予算も削減され、医療・防疫体制が破壊され、コロナ禍で危機的状況が生まれた。結局、維新の「経済成長」戦略は地域経済の脆弱化をもたらし、コロナ危機のもとでその失敗が明らかになっている。大阪府の失業率は全国最悪である。大阪市の廃止・解体は、130年の歴史のなかで形成された大都市の活力をそぎ、大阪の貧困・格差の拡大をいっそう激しくするものである。
私は、大阪市住民となって48年になるが、住民投票で賛成が多ければ、大阪市は2025年1月1日に地図の上から消える。現大阪市民の生活は大阪府の統制下におかれ、財源、サービスが大阪府に吸い上げられ、基礎自治体の体をなさない特別区の「区民」とされる。自治体の本旨は「住民の福祉の増進」にあり、政令指定都市・大阪市のもとで現24行政区の区役所機能を拡大し、住民参加を進めて区役所を実質的な基礎自治体として機能させることこそが住民自治の実質化の方向である。維新の暴挙を許してはならない。

岩井 圭司(兵庫教育大学教授)精神医学

薬には効果(主作用)と副作用(有害作用)があります。副作用は一切許容されない,というものではありません。同様に,人が何かを為すに当たっては,デメリットが一切生じてはいけないというものではありません。予めデメリットをしっかり見据えた上で,「それでもやろう」ということであれば良いのです。
ですので,大阪市がなくなること,現在の大阪市民はどこの市民ではなく、ただ北区とか中央区とかいう特別区民になること,特別区の権限は市町村以下で上下水道の料金一つも自分で決められない,その特別区の住民以外によって選出された議員が大半を占める府議会が決めることになる…等々ということのデメリットを,まずはきっちりと評価しておかねばならないのです。それをすることなく大阪市廃止・特別区設置が認められてしまうというのは,臨床試験なしに新薬を導入するにも等しい愚挙と言わねばなりません。

宇佐見正史 (岐阜協立大学・教授)日本経済史

「朝日新聞」(2020年9月29日朝刊)によれば、大阪都構想への賛成理由の多くは、行政のむだ減らしや大阪の経済成長につながる、という内容です。従って、大阪都構想=大阪市解体構想の目的が、大阪市の収入を大阪府に集中して大企業本位の都市開発のために振り向けていくことであり、行政のむだ減らしや、住民自治・住民生活の向上には何ら寄与しないという点を市民に訴えていくことが急務です。今次のウイルス禍により、インバウンド・カジノ頼みの成長戦略は、もはや破綻したも同然です。さらに大阪市解体を阻止することは、今後の新自由主義との闘争に重要な橋頭保を築くことにつながるでしょう。

小澤力(大阪府歯科保険医協会・理事長)歯科医学

新型コロナウイルス感染症では、歯科医療機関の多くが持続化給付金の対象となる収入が前年度比5割減に届かず、対象外となりました。そして、現在でも歯科は、感染リスクが高いという風評や予約調整などにより、コロナ以前よりも厳しい状況が続いています。しかし、吉村大阪府知事は、府の財政規模からすれば、全くといって良いほどの貧弱な予算しかコロナ対策に計上せず、松井大阪市長は、市解体後を想定した「バーチャル都構想」として、府任せで市独自の支援策を全く打っていません。既に「都構想」が歯科医師や府民を苦しめています。私たちは、歯科医療提供体制の確保と言う行政の責任をおざなりにし、住民の命と健康を軽視する「都構想」に深刻な危険性があると考えます。

高本英司(大阪府保険医協会・理事長)医学

コロナ禍の今、なぜ大阪市廃止を問う住民投票なのか。吉村知事は新型コロナ対策の「大阪モデル」で有名だが、実際はワクチン治験をめぐる発言や「うがい薬」会見など政治主導で科学的根拠が乏しい。住民投票の実施判断の根拠とした「非常事態基準」を7月には何度も改変した。松井市長は「バーチャル都構想」を語るのみで大阪市としての独自施策は放棄している。大阪市をなくして特別区になれば市財源の65パーセントは府に吸い上げられ、子ども医療費助成制度の対象年齢引き下げなど住民サービスが今以上に切り捨てられることは必至だ。

松永和浩(大阪大学適塾記念センター・准教授)歴史学

大阪都構想は、市民の共有財産である文化財の保護という観点からも問題がある。市は基礎自治体として文化財保護の最前線に位置し、府は指導・監督する立場にあり、この二重行政は二重保護として機能している。現状は市職員複数が各専門領域(考古・美術・建築等)に基づいて、文化財行政を担っている。専門職員が4特別区に分属するとなれば、単にスケールメリットが失われるだけでなく、各区でカバーできる専門領域に偏りが生じ、ましてや人員拡充は期待できない。文化財行政にとって、大阪都構想はデメリットでしかない。

岸田未来(立命館大学教授)経営学

「大阪維新の会が進める大阪都構想の内容には、すでにその深刻なリスクを表明する方々から多くの疑問点が出されています。大阪市を廃止するという、後戻りのできない大きな判断を行うのであれば、少なくとも隔たりの大きい論点については、もっと時間をかけてじっくりと検討するくらいの余裕があってよいのではないでしょうか。また、私が住む市の隣にある守口市では、大阪維新の会の顧問でもある市長のもと、学童保育の民営化が進められました。その委託先となった民間企業は、もともと市に直接雇用されていた指導員10名を「学童保育の運営方法を批判した」という一方的な理由で雇い止めとしました。また指導員組合との団体交渉も拒否しています(現在は10名の方が大阪地方裁判所へ雇用継続を求めて訴えています)。維新の会は「民間ができることは民間で」と言っています。しかしそれはコスト削減最優先で、現場の状況を無視したやり方となり、混乱をもたらす可能性が高いことを、この事例が示しているように思います。」