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行政コスト増分について、行政が公表した数値に基づいて可能な限り正確な推計を行うことが、今、住民投票に向けて喫緊の課題となっています。

先程、大阪市四分割に伴う行政コストの増分推計について、大阪市が撤回した数値に変わる代替値を公表すべきであることを大阪市に要請いたしましたが、限られた時間の中で、残念ながら大阪市が代替値を公表しない可能性が十分に考えられます。ついては、行政コスト増分について、行政が公表した数値に基づいて可能な限り正確な推計を行うことが、今、住民投票に向けて喫緊の課題となっています。この点については、先程もご紹介した、計算シート(大阪市財政局作成https://www.facebook.com/Prof.Satoshi.FUJII/posts/2947102178724039)を参照しつつ、立命館大学の地方財政学者の平岡和久教授と森裕之教授が、「150億円~200億円程度という推計が妥当であるとおもわれる。」という見解をこの度公表されました。この後両名の見解は、森教授の下記Facebookをご参照いただければと思いますが(https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=1231336440578944&id=100011077999006本エントリの文末にコピペしておきます)、当方としても大いに妥当性のあるご見解と拝読いたしました。主なポイントは、・政令市と特別区の態容の相違から、消防や徴税業務等の大阪府に移管される13億円強は218億円から控除することが適当である。・24行政区業務などが、通常の特別区においては廃止されるために、その分の基準財政需要額が減ぜられると考えることが通常の特別区だと考えた場合には妥当である(その場合は、基準財政需要額の増分は150億円程度となる可能性がある)。ただし、今回の都構想では公明党が要求した条件によって、特別区においても行政区業務が存続することが謳われている。したがって、その場合は、その控除分が無くなる。したがって、その場合は基準財政需要額の増分は200億円程度なる。・なお、特別区と政令市での態容の相違の内、「都市化の程度」等を意味する種地については、特別区であろうが政令市であろうが大きく変化するとは考え難い。・以上を踏まえると、公明四条件を考慮しない場合は150億円程度だが、公明四条件を考慮して行政区のサービスを保持する場合には200億円程度と考えることが妥当と考えられる。というものと解釈しました。なお、当方としてはこうしたの平岡教授・森教授のご指摘に加えて、大阪市廃止特別区設置に伴う基準財政需要額を検討するにあたっては、平成21年度まで考慮されていた「合併補正」に対応する「政令市廃止特別区設置補正」とでも言うべきものを、少なくとも時限的に考慮することが必要ではないかと考えます(少なくとも、現時点で行政から公表されている、初期費用約241億円がそれに該当します)。ついては、その点を加味すると、150億円から200億円程度という平岡・森両教授のご見解よりも、少なくとも当面の間はさらに大きくなると考えることがより妥当であると考えられます。いずれにせよ、種地の係数を含めた態容にまつわる係数の詳細を所持する大阪市財政局からの情報が未開時のままでは、より正確なコスト増推計を行うことは困難な状況ではありますが、この状況下でさらに考慮すべき論点などありましたら、随時、そうした見解を自由な立場から公表いただきたく存じます。大阪市からのコスト増の代替値の再公表を改めて要請申し上げますと共に、以上の考察が、有権者のより理性的な判断を支援できますこと、心より祈念いたしております。ーーー以下、森教授のFacebookーーーーーーーーーhttps://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=1231336440578944&id=100011077999006大阪市を4分割した場合の行政コスト―基準財政需要額に基づく理論値の検証―     平岡和久(立命館大学)・森裕之(立命館大学)今回の『毎日新聞』の報道は、遅きに失した感があるものの、特別区の行政コストを基準財政需要額という国の定めたルールを準用して測るための出発点になったと評価したい。行政においてスケールメリットが働く項目がある。国が自治体の標準的な行政水準を保障するために交付する地方交付税の算定においてもその点が考慮されている。地方交付税を算定する際、標準的なコストを測るのが基準財政需要額である。基準財需要額は消防費、民生費、教育費などの行政項目ごとに測定単位を設定し、それぞれの行政項目ごとに需要額が計算される。たとえば消防費の測定単位は人口であり、単位費用11400円とすれば、人口×単位費用で需要額を算出する。ただし、団体ごとのコスト差を勘案する各種の補正係数がさらに掛け合わされて、最終的な需要額が決まる。補正係数のなかでもスケールによるコスト差を勘案する係数を段階補正係数という。市でいえば消防費、社会福祉費など17の行政項目に段階補正係数が適用されている。総務省のウェブサイトでは、段階補正係数について、以下のように説明している。「地方団体は、その規模の大小にかかわらず、一定の組織を持つ必要があり、また、行政事務は一般的に『規模の経済』、いわゆるスケールメリットが働き、規模が大きくなる程、測定単位当たりの経費が割安になる傾向があり、こうした経費の差を反映させるもの」一方、段階補正係数とともに考慮しなければならない補正係数として普通態容補正係数がある。普通態容補正係数は大都市の財政需要を割り増しするものであることから、段階補正係数と連乗すると、一定程度相殺される傾向がある。普通態容補正は3項目からなり、総務省のウェブサイトで以下のように説明されている。「ア 行政の質量差によるもの・「都市化の度合いによるもの」 市町村を20段階の種地に区分し、大都市ほど行政需要が増加する経費(道路の維持管理費、ごみ処理経費等)について割増し。・「隔遠の度合いによるもの」 離島辺地の市町村やそのような地域を持つ道府県における旅費、資材費の割高の状況を反映。・「農林業地域の度合いによるもの」 農林水産業を主産業とする市町村の産業振興、地域振興のための経費について農林業級地の地域区分により割増し。イ 給与差によるもの地域ごとに異なる地域手当、住居手当、通勤手当等の給与差を反映。ウ 行政権能差によるもの指定都市、中核市、その他の市町村では、法令に基づく行政権能が異なることから、これによる経費の差を反映」このうち、ウの行政権能差は段階補正係数に連乗する係数ではないため除外できる。アの行政の質量差によるものとイの給与差によるものの補正係数を合計した普通態容補正係数を段階補正係数とかけ合わせることで一定の相殺効果をもつ。なお、東京23区の場合は種地を定めていない。218億円の行政コスト差は、基準財政需要額の算定において段階補正係数が適用されている17の行政項目について現行の大阪市と大阪市を4分割した場合の市とを単純に比較し、差額を合計して得られたものである。その意味では、現行の大阪市と今回設置を提案されている特別区とを比較したものではない。ただし、特別区であっても政令市であっても行政事務を担うのであるから、行政コストを測ることが全くできないということではない。基準財政需要額を用いて行政コスト差を測る際に、大阪市を4分割した市と特別区(いわゆる中核市並)の行政事務の主な違いは、①市では消防行政を行うが、特別区は消防行政を行わない、②市では法人住民税・固定資産税等の徴税事務があるが、特別区ではそれらの徴税事務を行わない、の2点である。①消防費については、現行大阪市と4分割した市との行政コスト差が約13億円と試算されているが、消防行政は府に移行することから、218億円から控除することが適当である。②法人住民税・固定資産税等の徴税事務(徴税費)については府に移管する徴税事務の分も行政コスト差を割り引く必要があるが、たとえば徴税費全体の差額は5700万円程度であり、全体額に大きく影響するわけではない。なお、政令市では学校教職員の給与を負担するが、特別区は負担しないという違いについては、学校教職員の給与については「その他教育費(人口)」の行政項目で普通態容補正のウの行政権能の差によるものとして補正されるが、段階補正係数と連乗する補正係数でないことから「その他教育費・人口」の行政コスト差は変わらない。同様に大学の移管もこの試算には影響しない(市立大学は「その他教育費(人口)」の密度補正であり、これも段階補正係数に連乗する補正係数でないことから行政コスト差に影響しない)。次に検討しなければならないのは、段階補正係数と連乗する普通態容補正(アの行政質量差によるもの+イの給与差によるもの)がどの程度段階補正係数と相殺することになるかである。厳密な試算を行うためには4つの特別区について一定の合理的な仮定をもとに種地を定めるための評点を計算しなければならない。そのための基礎データについても財政局に整理していただく必要がある。ただし、合理的に推論すれば、アの行政質量差の内容である「都市化の度合い(人口集中地区人口、経済構造、宅地平均価格指数および昼間流入人口)」、「遠隔の度合い」および「農林業地域の度合い」は大阪市の地域構造そのものに基づくことから、大阪市の実態に即してみれば4特別区を合わせてみるとほぼ変わらないという前提条件を置くことが可能であろう。ただし、行政項目によっては行政権能差が加味されている点があるが大きくは変動しないとおもわれる。段階補正および普通態容補正(連乗分)が適用される12の行政項目(消防費を除く)はいずれも住民に身近な行政事務であり、徴税費および保健衛生費を除けば、特別区はほぼ全ての中核市権限および相当な政令指定都市権限を有しているからである。また、「地域振興費(人口)」の普通態容補正には指定都市が行政区を有することによる割高となる経費が反映されており、その点をどう考慮するかが問題になる。特別区設置協定書では旧24区の「区役所」を維持することを盛り込んでいることから、指定都市の行政区は廃止されても一定の行政コストはかかるとみることもできる。また、イの給与差については、給与、地域手当およびその他の手当は変動しないとすれば、その点ではほぼ変わらないという前提条件を置くことが可能である。ただし、これについても行政項目によっては行政権能差を地域手当における係数に加味されている点があるが、一部を除けば大きくは変動しないとおもわれる。以上から、普通態容補正は段階補正と一定程度相殺する効果をもつが、それによって市が4分割されることによるスケールメリットの低下に伴う行政コスト増が相殺される面はさほど大きくないとおもわれる。もちろん、どの程度相殺されるかは精査が必要であるが、218億円から消防費分や徴税費分の差額など約14億円に加えて、保健衛生費および地域振興費(人口)などの減額分を差し引いた150億円~200億円程度という推計が妥当であるとおもわれる。このような基準財政需要額の変動に関する推計は、大阪市廃止・特別区設置を判断する上で決定的に重要である。それは本来詳細なデータを有する大阪市役所が住民投票に先立って全体像をいち早く提示すべきであり、それをめぐってより確からしい数字を法定協議会や議会で検討すべきものであった。本報告が少しでも住民投票のための材料となることを期待したい。