「大阪市特別顧問」による藤井批判、その「詭弁の構造」(草稿)|藤井 聡

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「大阪市特別顧問」による藤井批判、その「詭弁の構造」(草稿)

「大阪市特別顧問」による藤井批判、その「詭弁の構造」(草稿)

京都大学大学院教授 藤井聡

大阪市特別顧問の佐々木信夫氏が、(大阪市特別顧問という役職を明記しない形ではあるが)藤井「7つの事実」原稿に対する批判「中編」を、配信しておられる。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42670

この中で、佐々木氏は筆者が「7つの事実」で論じた、事実3、4,5の三つを徹底批判している。しかし残念ながら、それら批判はいずれ的外れの、反論の体をなしていない水準の批判であった。以下、彼の批判の不当性を解説する。

まず、佐々木氏は、

『争論3.「年間2200億円の大阪市民の税金が市外に「流出」する。」

→この説明も全くの間違い。都区制度の仕組みを全く理解していない説明である。』

と断じている。

しかし、この佐々木氏断定こそが、「全くの間違い」である。

そもそも筆者は、この「事実3」(論争3ではない)で、次のように論じている。

「 ところで,政令指定都市,というのは,要するに,固定資産税やら都市計画税やらで得られたお金を,自分のためだけに自由に使うことができる,という,他の市町村では考えられない程の「強力な権限」を持っています.(中略)(しかし)都構想が実現すると,現在の大阪市民は,一人あたり年間8万円(注:これが2200億円に相当します)ものおカネを,自由に使えなくなってしまうわけです.」

さらに、藤井は、次のような文章も書いている。

「とはいえ,大阪市から流出した2200億円を管理する「大阪府」が,大阪市(特別区)のためだけにたくさんの良いことをしてくれるのなら,現大阪市民が「損」をするという事はない,ということは言えそうです.」

これらから明白な通り、筆者は「大阪市民が自由に使える財源」、つまり「大阪市民の自治体が持つ財布」の話しをしているのであって、「使途」について論じているのでは断じてない。特にそれは、上記の後者の文章から、明々白々だ。

しかし、佐々木氏は誰もが理解出来るこの事実が理解出来なかったのか意図的に無視しているのかは分からないが、勝手に当方が「財布=財布」に話しではなく「使途」の話をしていると勘違いし、それを「間違えている」と断じているのである。

専門家としてこれほど恥ずかしい間違いは無い。

政治家や一般人が「人を批判」する時に批判対象を理解していないことは日常茶飯事だが、専門家にとってその類の誤りは、学者の権威を失墜させる程の命とりとなる。しかも今回は、佐々木氏が「前編」で宣言したとおり、「私は専門家の学者であり、あなたは専門家ではないから、わたくしがあなたの間違いを正してやろう」という態度で藤井を批判し「間違えている」と断じているのである。にも関わらず、「間違えて」いたのは、誰有ろう佐々木氏ご本人だったのである。筆者ならばこの手の誤りをしてしまったら、しばらく恥ずかしくて人前にでれなくなってしまうだろう。

ただし、もしも彼がこれを意図的にやっているとするなら、恥ずかしくは思わないだろう。そうだとすれば、彼のこの手法(あるいは「手口」)は、相手を貶めるだけにしばしば採用されてきた、世によく知られた「藁人形論法」という悪質な「詭弁」に他ならない。すなわち、批判するにあたって、批判対象を意図的にねじ曲げ、主張してもいないこと(それが藁人形だ)を主張したと断じ、それを(つまり、藁人形を)批判する、それを通して、相手の社会的評判を傷つけようとする、悪質、かつ、典型的な詭弁アプローチだ。

佐々木氏は一体、専門家としての資質に問題があるのか、それとも、(長年東京都という行政職で培った)自らの大阪市特別顧問という役職に対する職務に忠実に、現大阪市が進めようとする政策を批判する学者を貶めるために意図的に詭弁を弄したのか、あるいは、その両者なのか。佐々木氏の弁明を聞いていたいところである。

次に、事実4「流出した2200億円の多くが、大阪市「外」に使われる。」については、「「誤認4」であると厳しく指摘せざるをえない。」とまで激しく批判している。

しかし、この佐々木氏の批判は、恐ろしく初歩的なミスを貸した批判なのである。

第一に、そもそも、この事実4については、これまで論争になってきたので、筆者は次の様な原稿をまとめているが、佐々木氏はそれを一切読んだ形跡がないのである。
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2015/02/03/fujii-129/
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42056
ここでもまた彼は、批判対象を十分に理解せずに批判しているのである。ここにも、藁人形論法の詭弁か、佐々木氏の学者としての資質不足かのいずれか(あるいは双方)が見て取れる。

第二に、彼は「今回の都構想の特別会計」というものが一体どういうものとして議論されてきたのかを、全く理解せずに、「特別会計」というイメージだけで、激しい藤井批判をしているのである。

彼はこう論ずる。

「都区協議会で監視する「移管に係わる資金」として「特別会計」が設置され、すべて移管の趣旨にそって旧大阪市区域の広域行政費用として使われる。」

これは恐ろしい事実誤認だ。現在の制度設計の議論を、佐々木氏は知らないのではないだろうか?これまで議論されてきたのは、特別会計には2200億円の「半分」しか入らず、残りの半分は、一般会計にそのまま直入される制度設計なのである。
http://www.pref.osaka.lg.jp/…/19163/00159774/01shiryo01.pdf…

もうそれだけで、「「特別会計」が設置され、すべて移管の趣旨にそって旧大阪市区域の広域行政費用として使われる。」とはいえないのは明白なのである(まさか、「すべて」というのは「特別会計ですべて」という趣旨ではなく、なぞと申し開きをするのであろうか)。

しかも次のようにも論じている。

「特別会計と一般会計の違いを理解していないもの。特別会計の財源は、その設置目的に沿って支出されることになり、特別会計の金額が決定された以後は、その会計の設計通り、支出が行われていくことになる。したがって、市域外に流出するようなことはあり得ない。」

これもまた明白に、これまでの都構想のための「協議会」の議論から乖離している。筆者がこれまで、「特別会計」として論じてきたのは、これまでの協議会で論じられてきた、下記資料に基づくものなのである。

http://www.pref.osaka.lg.jp/…/19163/00159774/01shiryo01.pdf…

これは、憶測でもイメージでもなく、大阪府市の行政的議論の中で提出されている設計図だ。

この図からも明白なとおり、その特別会計は、単に「調整財源を、大阪府の一般会計に繰り出し」するためだけのものとして書かれている。この図を素直に読み解く限り、繰り出された財源の使途は、大阪府の一般会計で管理されていくことになるのだ。

しかし、議会答弁で市長は、「特別会計で管理する」と発言していることもあり、繰り出されたものの管理を、特別会計側で行う可能性(つまり、上記資料からさらに改訂された制度になる可能性)もあることから、その点についても、下記原稿で詳しく論じている。詳細は下記をご覧いただきたいが、一般会計の支出を特別会計で逐一チェックするのは実務的に絶望的に難しいのだ。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42056

佐々木氏は、こうした精緻な議論を知っていて無視したのか、知らずに、単に批判したのかどちらなのだろうか?繰り返すが前者ならば悪意に基づく詭弁であり、後者なら学者としての資質が問題となろう。

最後に、事実5.「特別区の人口比は、東京は「7割」、でも大阪では「たったの3割」については、とりたてて反論はしていない。これもまた、事実だからだ。

しかし、事実3や事実4の「事実性」については、佐々木氏は効果的な論駁は一切できていない。したがって、未だ、筆者が提示した7つの事実は、未だ一つたりとも、その事実性は論駁されていないのである。

にも関わらず、大阪市特別顧問の立場を明記しない「専門家・佐々木信夫」氏は、これらの事実を、理性的、論理的な根拠不在なままに、

「間違っている」

と何度も断じている。

根拠不在なまま結論を断定し、特定の印象操作を果たそうとする振る舞いを詭弁と言うのだ。

繰り返すが、政治家の詭弁なら、もちろん許しがたいものであるには違い無いが、そういうものかとあきらめも付く。

しかし、同業者である学者の詭弁は、自身の名誉の問題をすべてさておくとしても、誠に許しがたきおましきものであるとしか言い得ぬものである。同じ学問の道を志す学者として、佐々木氏の猛省を促したい。

なお、今回の原稿は「中編」とのことであるので、「後編」が配信される見込みなのであると思われる。「後編」が実りある議論をもたらすものである一縷の望みを、ここに記しつつ、その公表をまちたいと思う。