新日本経済新聞2015年9月8日

都構想・再挑戦など「言語道断」である ~都構想を考えるラウンド2~

京都大学大学院教授 藤井聡

本年5月17日の住民投票で否決されたいわゆる「大阪都構想」──今、この構想は再び、11月22日の大阪府知事選・大阪市長選のいわゆる大阪W選挙で公約として掲げられ、「再挑戦」される運びとなりました。

そもそも5月に否決された背後には、大阪都構想が、有権者(=大阪市民)の利益を大きく損ねるリスクを持った「危険」なものなのではないか、と心配する有権者が多数に及んだことがあります。

ただし、都構想への賛成票も、反対票にほぼ匹敵する程に投じられたのは事実です。

その背景には、橋下市長を中心とした大阪維新の会、維新の党等による政治勢力(以下、「橋下維新」と略称します)による、12億円の血税を投入しながら行った徹底的な「プロパガンダ」と、都構想の事実・真実についての言論に対する、徹底的な「言論封殺」があります。
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150520-00010003-jisin-pol

「プロパガンダ」、ならびにそれが如何に「嘘」「虚構」に塗れたものであったかについては、適菜さんの下記記事で、詳しく報じられていますし、
http://www.gruri.jp/article/2015/04230900/
中でも特に明々白々な「ウソ」として有名なのが、下記のいわゆる「詐欺パネル」です。
http://ameblo.jp/datoushinzoabe/entry-11995190678.html

一方、「言論封殺」については、当方のHPサトシフジイドットコムの下記ページに詳しく取りまとめられていますし、
https://satoshi-fujii.com/pressure/
特に明白な公権力による「言論封殺」としては、以下の「藤井をTVに出すな圧力文書事件」が挙げられるでしょう。
https://satoshi-fujii.com/150504-4/ https://satoshi-fujii.com/150426-3/

もう、こうした過去を振り返るだけで、「都構想・再挑戦」など、

『言語道断』

としか言いようがありません。

ですが、さらに『言語道断』なのは、橋下維新は前回の住民投票の時、「この投票が最後だ」と、繰り返し主張し続けていた、という点です。

■「今回が大阪の問題を解決する最後のチャンスです。二度目の住民投票の予定はありません」(大阪維新の会の公式HP)
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=614294525378350&set=p.614294525378350&type=1&theater

■橋下氏、住民投票「何度もやるものではない。1回限り」 否決なら都構想断念
http://www.sankei.com/west/news/150507/wst1505070064-n1.html

■「僕のことはキライでもいい。大阪がひとつになる、ラストチャンスなんです」
http://buzzap.jp/news/20150905-hashimoto-last-chance-again/

■「大阪を変えるラストチャンス」
by 橋下氏
http://www.sponichi.co.jp/society/news/2015/05/08/gazo/G20150508010310410.html

by江田氏
http://www.huffingtonpost.jp/kenji-eda/osaka-metropolis-plan_b_7261910.html

■(橋下氏)「大阪を変えれるのは、このワンチャンスだけ。ぜひ、住民投票で新しい大阪を作っていきましょう。よろしくお願いします」
http://biz-journal.jp/2015/05/post_9921.html

言うまでも無く、「これが最後か….なら、賛成しておこう」という有権者がおられたことは間違いありません。というか、そういう有権者がたくさん居るだろうと思ったからこそ、橋下維新は「ラストチャンス」「ワンチャンス」「一回限り」と煽りに煽っていたわけです。

……にも関わらず、橋下維新は今度の11月のw選挙にて都構想を再度公約に掲げ、「再挑戦!」と宣言しているわけです。

これはつまり、「もう閉店!これがラストチャンス!今買わないと損するよ!!」というセールスを「しょっちゅう」やるような、あこぎな商店の

「閉店セール詐欺」

と全く同じ話です(あるいは、 「ラストラスト詐欺」 と言うこともできるでしょう)。

無論、それが商売人なら、笑って見過ごすこともできるかもしれません……が、これは、「大阪市を廃止するか否か」という超重大判断に関わる住民投票にて、巨大な公権力を掌握した橋下氏という「政治家」によってなされたものなのです。

だから我々は国民・市民の

『義務』

として、政治家の詐欺を許してはならない、と言って過言ではないのです。

つまり、「まぁ、橋下さんはそういう人だから」とか「政治家っちゅうのはそういうもんでしょ」などといって、この再挑戦を是認してしまうことそれ自身が、有権者として果たすべき義務を放棄した、不当行為なわけです。

だからこそ我々は、この度の橋下維新の再挑戦に対して、

『言語道断』

と、言わねばならないわけです。

ただし……「大阪都構想の復活」が「言語道断」な最大の理由は、やはり「都構想」の中身そのものが、大阪市民にとって論外の代物だ、という点にあります。

そもそも「都構想」は、大阪における地方行政に、現在の東京が導入している「都区制度」という、極めて特殊な制度を導入するものです。

そして本記事の「PS3」に記載した「四つの理由」の全てが、「都区制度」が、大阪の人々に大きな公益毀損をもたらす事を示唆しています(ご関心の方は、是非、「PS3」をご参照ください。なおこの付録には、区割りパターンに依存しない、都区制度それ自身の欠陥を指摘するものです)。

ですからもしも、橋下維新が「都構想の復活」を謳いあげるのなら、これらの指摘の一つ一つに対して、こうした懸念はいずれも事実無根の杞憂なのだ、ということを理性的に説明せねばならないのです。

……にも関わらず、これらの全てに対して無視した上で、都構想の復活を公言するなど、

『言語道断』

という他ないのです。

……

以上いかがでしょうか?

橋下維新が都構想の再挑戦を表明するなど、

1)5月の住民投票時の「脱法」丸出しの名誉毀損の誹謗中傷と言論封殺、そして嘘にまみれたプロパガンダによる詐称的行為に思いをはせるだけでも、
2)そもそも「これでラスト!」と言っていたことに思いをはせるだけでも、
3)そしてさらには、その都構想の中身そのものの論外な劣悪さに思いをはせるだけでも

『言語道断』

と言う他に何もないのです。

人間はついつい、ちょっと時間がたてば、いろんな事をあらかた忘れてしまうものです。ですから、本メルマガ読者の多くも、都構想の「論外っぷり」をお忘れになっていたかもしれません……が(!)、橋下維新が「再挑戦」を口にした今、がっつりとその事実を思い起していただきたいと思います。

「都構想」が復活を遂げるか否かが決せられる、

11月22日(大阪府知事選・大阪市長選のW選挙)

までは、本日からちょうど「75日」。

当方はこれから毎週、「都構想」にまつわる、当方の様々な学術的所見を、5月の時よりもさらに幅広く(!)、マクロ経済や国際情勢なども加味した多様な視点から配信してまいりたいと思います。

読者各位におかれましては是非、この、

「都構想・再挑戦をめぐる75日間の言論戦」

を通して、その「都構想」の「言語道断」っぷりを、がっつりとご理解いただけますと幸いです。

なんといっても、この問題は「現代日本の縮図」なのです。

ですから、これを深く考えることは、政治、経済、社会、文化といったあらゆる現代的問題を深く考えることとなるのです。ついては是非、一人でも多くの方々に、この大阪の問題を深くお考えいただき、それを通して、現代日本の病理の構造をしっかりとご理解いただきたいと思います。

それを深く考えることが、大阪のみならず、日本を救う縁(よすが)を与えるものとなるのです。

では、これからの75日間、改めてどうぞ、よろしくお願いいたします!